研究課題/領域番号 |
22K17509
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
馬場 香里 公益財団法人東京都医学総合研究所, 社会健康医学研究センター, 主席研究員 (00825127)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 虐待 / 予防 / 妊娠期 / 特定妊婦 / 要支援妊婦 / 母子保健 / 児童福祉 / 通告 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、乳児虐待を予防するために、生活上の困難をもった妊婦(要支援妊婦、特定妊婦)を多職種によって包括的に支援する連携モデルを開発することである。この目的を達成するため、令和4年度は以下2点について実施した。 1.虐待予防に関連するbest practiceの抽出:網羅的文献レビューを実施し、虐待予防として成功している政策を抽出した。妊娠期からの支援として重要な考え方は、【Proportionate Universalism(Marmot et al., 2010)】を採用した。これは、緩やかな基準によって資源の傾斜配分をすることであり、ニーズに対応した普遍的サービス提供を意味する。政策方針に関しては、胎児虐待を通告対象とした場合(そうしなかった場合と比べると)、妊婦がより行政サービスにつながりにくくなっていた(Austin et al., 2022 JAMA pediatrics)。RCTによって虐待予防効果が確認されている予防プログラムとしては、米国のNurse Family Partnershipと、ニュージーランドのEarly Startであった(MacMillan et al., 2008 Lancet)。 2.特定妊婦に関する支援実態:妊娠中に通常の行政サービスを受けたことのある当事者への聞き取りでは、ハイリスクアプローチが、支援を要する妊婦へのスティグマを生んでいた。また、1歳未満の虐待通告ケースについて後方視的に検証すると、母子保健部門によって(要支援妊婦または特定妊婦として)支援を受けていたケースはほとんどなかった。これまでの虐待予防では、リスクスクリーニングによってハイリスク者を抽出して支援するというハイリスクアプローチが主流であったが、現状ではスティグマを発生し、結果として支援を必要とする妊婦が行政サービスにつながりにくくなっている現状が見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の計画では、虐待予防に関連するbest practiceを抽出し、特定妊婦に対する支援実態を検証することを計画していた。令和4年前期に、網羅的文献レビューは完了し、令和4年後期に保健と福祉の部門での聞き取りや、当事者への聞き取りを完了しており、計画通り進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に集めた1歳未満の通告ケースについて、それらの支援体制等構造的な部分についてケース分析し、妊娠期の支援が促進された要因や阻害された要因を抽出し、具体的な改善策を考察する。その後、乳児期の虐待を予防する上で、妊婦への支援における多職種(多機関)連携モデル案を作成する。特定妊婦として支援を受けた経験のある当事者へのインタビューを実施し、連携モデルを改善し、最終版とする。本研究で得た知見は、最終年度に行政サービス提供者である専門職等を対象に、研修にて普及の機会を設ける。さらに、乳児虐待予防を目的とした支援モデルに関する学術雑誌への投稿、学会発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】 令和4年度参加予定であった国内学会がハイブリッド開催となり、旅費として計上していた予算が未使用となった。また、文献検索を研究代表者自らが行ったため、補助員費として計上していた人件費に未使用額が出た。 【使用計画】 令和5年度は、虐待予防へbest practiceを実施している海外プロジェクトの視察、得たデータの解析、調査結果の論文化、学術雑誌への投稿・学会発表を計画している。よって、英文校正費、学会発表や海外視察にともなう旅費、論文オープンアクセス費に使用する予定である。
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