研究課題/領域番号 |
22K17525
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
岩垣 穂大 金城学院大学, 人間科学部, 講師 (40882642)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 社会的孤立の解消 / 高齢者のつながりづくり / 多世代交流 / 社会参加 / 外出頻度の増加 / 意識・行動の変化 / 社会的処方 / ステイホームダイアリー |
研究実績の概要 |
2022年度もステイホームダイアリー(交換日記)を活用した孤立・孤独の予防事業に取り組んだ。対面のワークショップを7月、11月、2月に行ったが、毎回50名以上の参加者が学びを深めた。ダイアリーのチーム(3人一組)は20チーム以上でき、約半年間をかけて7周ダイアリーを回した。2022年度のテーマは、①流れ星に願いを(流れ星にお願いしたくなるようなささやかな願い事について)、②体を動かす(家事、庭仕事、散歩、スポーツ等様々な体を動かす方法について)、③食べる(定番のお土産、行きつけの飲食店、最後の晩餐などについて)、④趣味・推し・はまっていること(楽しくてたまらずハマっていること、推し活動などについて)、⑤掃除(日々の掃除はどうしているか、掃除の知恵や工夫などについて)などであった。メンバー同士で感想やコメントを書き込むことができ、「どんな反応が書かれているのか回ってくるのが楽しみだった」、「日記が届くと友人が遊びにきたような感覚になった」との感想が聞かれた。自由におしゃべりをするページには、イラストを書いたり、写真を貼ったり、年賀状を交換するなど、参加者独自の使い方が数多く生まれていた。 今後、効果の測定は、参加者への半構造化インタビューやアンケート調査にて行う予定である。ダイアリーへの参加による意識の変化、行動の変化について明らかにし、孤独孤立予防に効果のあるツールの作成を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究フィールドである三重県名張市には5度ほど訪問し、ワークショップを中心に活動を行った。行政の関係者のみならず、地域の方々とも協力関係が段々とできており、研究の進行はおおむね順調である。 “紙に手書き”というダイアリーの性質上、時間をかけて文章を考え、相手に伝わる文字で記す必要がある。参加者からは「普段面と向かって言えないことを書くことができて、じっくり考えて書けるので良かった」「字を何回か読んでいるうちに、表情や気持ちを感じられるようになった」などの感想があり、パソコンやスマートフォンによるコミュニケーションとは異なる時間感覚や文字の温かみに接し、改めて“紙と文字”の魅力を認識するきっかけになっていた。その他、参加者へのインタビュー調査から得られたダイアリーの効果は、「社会参加を促す効果」(つながった仲間とごはんに行った、つながった仲間の活動に参加したなど)、「つながりを広げる効果」(信頼・安心できる仲間ができた、多世代交流ができた、自分の居場所だと感じたなど)、「こころの健康に関する効果」(つながった仲間に悩みを聞いてもらえた、ダイアリーの中にたくさんの笑いがあったなど)であった。回数を重ねて日記に夢中になる中で、メンバーとの信頼関係が築かれ、意識・行動の変化が生じ、これらの効果につながっていったのではないか。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度はワークショップを中心に行ってきたが、今後その効果の測定を中心に行っていきたい。
英国Social Prescribing Network のMichael Dixonらが示している社会的処方の基本理念では、「人間中心性」「エンパワメント」「共創」の 3つの要素を含むものとされている。本人が中心となり、リンクワーカーのサポートを受けて自ら参加する活動を選択し、周りの仲間と共に作り上げていくプロセスである。ステイホームダイアリーも、メンバー間でお互いを尊重し、対話をしながら励まし合い、共につながりや活動を創る空間となっていた。 ダイアリーによるつながりづくりの短期的なアウトカムとして、社会的孤立度の改善、高齢者うつの改善、主観的健康感・幸福感の向上などがあげられる。長期的なアウトカムとしては、社会保障費の抑制、ひきこもりの減少などが期待できると考えられる。今後、孤立孤独対策としてのこれらの仮説について、自治体の医療介護データを活用しながら検証していくことが求められる。
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