視覚性運動錯覚は自己の身体は安静にしたまま、自分が運動を行っているような一人称視点で運動を観察することで錯覚を誘発する方法である。これまで視覚性運動錯覚により運動に関連した脳機能が即時的に変化することが報告されていた。さらに、脳卒中患者では運動機能が改善することが報告されていた。しかし、運動学習効果については明らかになっていなかった。そこで、本研究の目的は視覚性運動錯覚と運動観察における運動学習効果に差異があるかを健常人を対象に機能的近赤外分光装置(fNIRS)を用いて検証することである。視覚性運動錯覚とは視覚刺激を用いて運動錯覚を誘発する方法である。運動観察は錯覚と同様の映像を用いるが、錯覚を感じないように被検者に運動を観察させる。プロトコルは健常人を対象に無作為に錯覚群と観察群に分けて、球回し課題を用いてそれぞれの条件前後で球回し回数と脳活動が変化するのかを測定した。各条件は20分実施した。脳活動はfNIRSを用いて測定した。早期の運動学習効果を検証するために、条件直後と条件1時間後に球回し回数と脳活動を測定した。錯覚条件では運動観察条件よりも条件直度、条件1時間後で球回し回転課題の速度が有意に改善した。加えて、錯覚条件では、運動観察条件と比較して、条件直後から条件前にかけて左背外側前頭前野と右運動前野の活動が低下した。結論として、錯覚条件は運動観察条件と比較して健常者の運動学習の初期段階を効果的に助けることが明らかとなった。
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