化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy: CIPN)は難治性神経障害性疼痛であり,効果的な理学療法学的介入戦略は確立されていない.CIPNの病態に関しては,動物を対象とした先行研究にて定量的感覚検査(quantitative sensory testing: QST)を使用し,末梢神経の機能変調が関与することが明らかにされつつあるが,がん患者におけるCIPNの病態は患者報告アウトカムを主体とした疼痛実態調査に留まっており,依然として解明には至っていない. 昨年度は研究対象となるCIPN症例が1例と少なく,今年度も引き続き「神経学的側面からのCIPNの病態解明」を進めてきた.当初予定していた研究実施施設での研究遂行が困難であり,研究対象となるCIPN症例数は増加しなかったが,対照群として同年代女性11例を追加し,QST評価と質問紙評価の結果を比較検討した. 結果としてCIPN症例では,対照群と比較してQSTでは有痛近傍部である前腕のPPT低下とTSP亢進,CPM低下を認め,末梢感作と中枢感作に加えて疼痛抑制機能不全も認められた。また,質問紙評価では破局的思考(pain catastrophizing scale: PCS)や不安・抑うつ(hospital anxiety and depression scale: HADS),睡眠障害(Athens insomnia scale: AIS)等には問題を認めなかったが,ADL障害(pain disability assessment scale: PDAS)を認めた. そのため,症例数は少ないがCIPNの神経学的な病態には有痛近傍部の末梢感作や中枢感作に加えて,疼痛抑制機能変調が関与し,ADL障害を引き起こす可能性が推察される.
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