研究実績の概要 |
2023年度は、関節包前面における疎性結合組織の動態を、股関節前面痛ありの被験者と健常者で比較しBMC Musculoskeletal Disordersに受理された(Tsutsumi et al., 2024 BMC Musculoskeletal Disorders)。臥位で股関節屈曲位の状態から内転・内旋させるFADIRテストは、広く普及した股関節痛評価法の一つとされる。FADIRテストで股関節痛を再現できる場合(=FADIR陽性)には、関節内病変(関節唇の損傷など)の存在が疑われるが、FADIR陽性となっても関節内に問題がみつからないことは少ない。我々の研究グループでは、股関節前面痛症例で変性を起こすことが報告されている疎性結合組織が、関節包前面で大腿直筋深層・腸腰筋外側・小殿筋内側の空間に広がっていることを明らかにし(Tsutsumi et al., 2021 Scientific Reports)、この疎性結合組織の形が健常例では関節肢位に応じて形が変化することを明らかにしてきた(Tsutsumi et al., 2022 Scientific Reports)。そこで、問題の疎性結合組織がFADIR陽性の疼痛に関与する可能性を検討することを本年度の目的とした。股関節を屈曲位の状態から、徐々に内旋させると、FADIR陽性となる人は、関節包に対する小殿筋の動きが悪いことがエコーで確認された。また、股関節屈曲・内旋位の状態でMRIを撮像すると、FADIR陽性となる人では小殿筋-関節包前面の間で、問題の疎性結合組織の領域が狭いことがわかった。今後は、関節包に対する小殿筋の動きを改善することでFADIR陽性の痛みが改善されるのか検討していくとともに、FADIR陽性となった場合に「関節外」の関節包前面の疎性結合組織に着目した評価を行う必要性が示唆された。
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