研究課題
日常生活で生じる様々な外乱に対応し転倒を回避するためには,「下肢によるステップ動作」によりバランスを維持・回復することが重要となる.高齢者では反射的な運動能力の低下が予想される一方で,「予期せぬ外乱に対する反射的ステップは,若年者に比べて早い」という逆転現象が見られる.しかし,その具体的なメカニズムは明らかでなく,転倒予防に効果的な介入法は確立されていない.本研究では,転倒に結びつく高齢者特有の姿勢制御メカニズムを,実験とシミュレーションの両面から解明することを目的とする.具体的には,自発的・反射的ステップにおいて(1)実験的に制御目標に介入することと,(2)異なる制御目標を設定した姿勢応答のシミュレーションを実行することで,若年者と高齢者に見られる姿勢制御方略の違いを転倒回避動作における制御目標と制御因子の観点から明らかにする.本研究の進捗はおおむね順調である.本年度の主な成果は,(1)若年者および高齢者の筋機能を表現した筋骨格モデルを構築したこと,(2)これらのモデルの検証として,椅子からの起立動作をシミュレートし,高齢者特有の起立動作方略を明らかにしたことである.具体的には,若年者モデルは,座面から臀部が離床する際に身体重心の運動量を利用した方略を取るのに対し,筋機能が低下した高齢者モデルは,その方略による起立が遂行することが出来ず,重心の安定性を重視した方略を取らざるを得ないことが明らかになった.この結果は,実験的に得られている高齢者特有の起立方略と一致しており,このモデルの妥当性を確認することが出来た.この研究成果は,本年度の7月に開催された国際学会で発表済みである.本年度の成果を踏まえ,次年度は歩行中に外乱が身体に加わった際の転倒回避動作をシミュレートし,高齢者に見られる姿勢制御方略を明らかにすることに取り組む.
2: おおむね順調に進展している
本年度の主な成果は,(1)若年者および高齢者の筋機能を表現した筋骨格モデルを構築したこと,(2)これらのモデルの検証として,椅子からの起立動作をシミュレートし,高齢者特有の起立動作方略を明らかにしたことである.筋骨格モデルは,適合度と汎化性能のバランスを定量的に評価することでモデルの最適自由度を決定し,このモデルに筋腱複合体のモデルを実装することで,バランス能力が低下した個人(高齢者)の筋力発揮/制御特性を有する筋骨格モデルを構築した.この研究成果を纏めた論文は,国際学術雑誌に投稿している.また,座位からの起立動作をシミュレートし,実験的に観測されている若年者と高齢者の起立動作特徴を構築した筋骨格モデルによって再現することが可能であることを確認した.具体的には,若年者モデルは,座面から臀部が離床する際に身体重心の運動量を利用した方略を取るのに対し,筋機能が低下した高齢者モデルは,その方略による起立が遂行することが出来ず,重心の安定性を重視した方略を取らざるを得ないことが明らかになった.この結果は,実験的に得られている高齢者特有の起立方略と一致しており,起立動作においても若年者と高齢者で異なる動作方略を取っていることが明らかとなった.この研究成果は,本年度の7月に開催された国際学会で発表済みである.以上の理由から,研究は順調に進んでいると言える.
転倒に結びつく高齢者特有の姿勢制御メカニズムを,実験とシミュレーションの両面から解明することを目指し,以下4点の検討課題に取り組む.<目的1:自発的ステップの姿勢制御メカニズムの解明>(1)足部離地後(遊脚期)における姿勢の安定性が担保されると,高齢者では若年者と同程度に素早くステップを実行することが可能か,(2)筋機能が低下すると,ステップ開始に遅れが生じるのか<目的2:反射的ステップの姿勢制御メカニズムの解明>(3)足部離地後(遊脚期)における姿勢の安定性が担保されると,高齢者では突発的なステップ応答は抑制されるのか,(4)筋機能が低下した場合に,効果的な転倒回避を可能にするには制御目標(目的関数)の設定に変更が必要か上記の目的に対して,今後はこれまでの筋骨格シミュレーションを用いたアプローチに加え,実験的手法によって若年者と高齢者に見られる姿勢制御方略の違いを明らかにすることに取り組む.そのためには,個人の運動中の身体バランスに介入することが可能な実験環境を構築する必要がある,導入する引張装置として,Stanford Universityの研究チームが仕様書等を公表している可搬式の装置を採用することを検討している.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
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