研究課題/領域番号 |
22K17671
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
下竹 亮志 筑波大学, 体育系, 助教 (70801299)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 根性 / 系譜学 |
研究実績の概要 |
本研究は1964年東京オリンピックを契機に隆盛したとされる根性論を題材に、それがなぜ、いかにして今日まで連綿と続いてきたのかという問いを明らかにすることを試みるものである。具体的には、スポーツ、学術、経済の諸言説を系譜学的に記述することを通して、根性論がいかなる経路と論理構成のもと、なぜ日本社会に定位したのかを明らかにすることを目的としている。 令和4年度は、根性論の隆盛期である1964年東京オリンピック前後の時期について、朝日新聞の記事を中心に分析を行った。その結果、第1に戦後から1960年頃までは否定的な意味合いで用いられてきた「根性」という言葉が、その後肯定的な意味合いを持つようになったことが確認された。これは、先行研究と同様の傾向である。第2に、「根性」が語られる文脈を分析すると、1960年頃までは「経済・仕事」、「政治・国際関係」と関連付けられていたが、それ以降にスポーツと関連付けられるようになったこと。一方で、それ以降も「経済・仕事」との関連において頻繁に語られていることが明らかとなった。 また、当該時期の大松博文や八田一朗といったスポーツ関係者の書籍を分析した結果、現代社会においても根性論が根強く残っているとされるスポーツ界において、反根性論あるいは非根性論とでも呼べる思想が、既に萌芽していた可能性を見出した。今後は、こうしたスポーツ界における反(非)根性論の系譜を丹念に記述することが、重要な課題になると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、当初「根性」をタイトルに含む図書を中心に分析を進める予定であった。令和4年度に分析する予定であった1964年東京オリンピック前後の時期における図書は概ね収集できているが、まずは新聞記事を用いて「根性」がどのような社会的文脈と結びつき、いかに語られているのかという点について全体的な傾向を明らかにすることが重要であると考えた。なぜなら、図書を読み解き分析を行うには時間がかかってしまうために、全体的な傾向が明らかになれば、そうした傾向との関連において読み解くべき重要な文献を取捨選択できるからである。このような理由から、令和4年度は新聞記事の分析に重きを置いたため、当初の計画からはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にも記したように、現代社会においても根性論が根強く残っているとされるスポーツ界において、反根性論あるいは非根性論とでも呼べる思想が、既に萌芽していた可能性を見出したことが重要である。これらの系譜を紐解くことは、スポーツ界、ひいては日本社会に根強く残る心性として捉えられてきた根性論とは別のあり様を模索する上で、意味のある作業になると思われる。したがって、従来の研究計画では4年の研究機関を(1)隆盛期:1964年東京オリンピック前後、(2)定着期:1970年代、(3)反転期:1980年代、(4)潜伏期:1990年代以降に分けて分析する予定であったが、各年度に対象時期を割り振るのではなく、以下の3つの作業を並行させて柔軟に分析を行っていきたい。第1に、新聞記事を題材に「根性」がどのような社会的文脈と結びつき、いかに語られているのかについて全体的な傾向を引き続き分析すること。第2に、そのなかで反(非)根性論の系譜がどのように語られてきたのかを、スポーツ界を中心として分析すること。第3に、全体的な傾向に照らして、重要な社会的文脈と関連する図書を時系列的に読み解き分析すること。次年度以降は、以上の作業を中心に研究を展開していく予定である。これらの作業を進めながら、随時学会等での発表や論文の執筆を進めていきたい。
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