研究実績の概要 |
アミノトランスフェラーゼは,アミノ酸がATPとして利用されるために不可欠な分子である. これまでに骨格筋におけるアミノトランスフェラーゼの役割として, 分岐鎖アミノ酸 (BCAA) の代謝に関与するものが報告され, 体内のアミノ酸濃度や運動時のエネルギー供給に関与することが報告されている. しかしながら, 他の分子については解析されていないのが現状である. そこで本研究では, 骨格筋におけるアミノトランスフェラーゼの役割を明らかにすることを目的としている. 昨年度は, アミノトランスフェラーゼの阻害剤実験による骨格筋形成に影響を及ぼす標的分子の探索を行なった. 具体的には, 複数の阻害剤を用い, 培養筋の増殖・分化能や形態に及ぼす影響を検証した. その結果, 阻害剤によって培養筋の異なる表現型を示すことが示唆された. これらの結果から, 標的とする分子を絞り, 今後は, siRNAによる標的分子のノックダウン実験を行っていく予定でいる. 特定の分子の活性制御や遺伝子発現抑制が骨格筋細胞の増殖・分化といった恒常性にどのような影響を与えるのかを網羅的に解明していくことで, 骨格筋細胞の恒常性維持に必須となるアミノトランスフェラーゼ分子の探索を図っていく. また, アミノトランスフェラーゼによる代謝制御を検証すべく, 培養筋運動モデルを構築し, 筋収縮運動に伴う細胞内のATP動態を解析していく予定でいる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の実験計画では, 阻害剤実験に加え, siRNAによるノックダウン実験を行い, 骨格筋細胞の恒常性に重要なアミノトランスフェラーゼ分子の特定を予定していた. しかしながら, 阻害剤実験による影響は検証できたが, siRNA実験を行えていないため, やや遅れていると評価した. 今年度は, 阻害剤実験によって特定した標的分子のsiRNAによる網羅的遺伝子発現抑制によって, 特定のアミノトランスフェラーゼが骨格筋細胞の増殖・分化能や形態,機能に及ぼす影響について明らかにする予定でいる.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では骨格筋におけるアミノトランスフェラーゼの役割を明らかにすることを目的とし,その解明をするために①骨格筋細胞におけるアミノトランスフェラーゼの生理学的な役割の解明, ②骨格筋細胞の恒常性維持におけるアミノトランスフェラーゼの分子機序の解明, ③アミノトランスフェラーゼによるアミノ酸代謝を介したエネルギー産生率の解明, の研究計画を立てている. これまでに,50種近いアミノトランスフェラーゼ分子の存在が報告されているが, 骨格筋におけるそれらの分子の役割は不明である. そこで前年度は, 本研究計画①を基に, 骨格筋に発現するアミノトランスフェラーゼに着目し, その分子の活性制御や遺伝子発現抑制が骨格筋細胞の増殖・分化といった恒常性にどのような影響をあたえるのかを網羅的に解明してきた. 今年度も引き続き, siRNAによるノックダウン実験を行い, 特定のアミノトランスフェラーゼの骨格筋の形態や機能に及ぼす影響を検証していく予定でいる. これらの結果から, 骨格筋細胞の恒常性維持に必須となるアミノトランスフェラーゼ分子に焦点を当て, どのような分子機序によりアミノトランスフェラーゼが骨格筋細胞の恒常性維持に寄与するのかを解明する予定でいる (研究計画②). 具体的には, RNA-sequence解析による網羅的な遺伝子発現変動を明らかにし, 関連するシグナル経路を絞り込み, さらにqPCRやウエスタンブロット解析による詳細な検証を行うことで, 標的とするアミノトランスフェラーゼによる骨格筋細胞の恒常性維持に関与する分子メカニズムを解明する予定でいる.
|