本研究の目的は、身体運動中の心身の状態変化を監視して、異常を検知した場合には、練習を中断したり、運動方針を変更することを提案することで、心身に負担をかけずに運動技能の習得や発揮を可能にする支援システムの確立であった。 一般に運動技能の習得過程においては、疲労を感じたら練習を止めるといったように、身体の状態を自己判断して練習量を調節する。しかし、主観的な疲労感と実際に身体に生じている状態変化は一致しないことも多いため、しばしば過剰な練習を招いてしまう。また、過度な心理的プレッシャー下においては、例えば運動をする際に不必要に力んでしまうことがある。このような力みは、運動技能の習得や発揮を阻害するだけでなく、脳や筋の障害も招く可能性がある。 2年間の研究期間を通して、大きく2つの成果をあげることができた。第一に、運動中の疲労と身体運動の関連に関しては、筋電図の振幅と実際に発揮される力の大きさの比が、学習様態と関連する疲労関連バイオマーカーとなることを見出した。一方で、主観的な疲労感と学習様態の間には関連が認められなかった。本成果は査読付き英文誌に掲載された。 第二に、過度な心理的プレッシャーと運動パフォーマンスの研究に関しては、運動開始前の筋の共収縮が、心身の状態変化を反映するバイオマーカーの候補となることを明らかにした。当該研究では、被験者に「あがり」状態を誘導することを目的に極端な高報酬が与えられる運動条件を設定して、通常の報酬量での運動時と比べて、筋活動がどのように異なるのかを評価した。本成果はプレプリントとしては公開済であり、現在は査読付き英文誌の査読中である。
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