レジスタンストレーニング(RT)は筋肥大・筋力増強のみならずエネルギー代謝の改善をはじめとする様々な健康増進効果をもたらすが、その機序は明らかではない。生体の骨格筋は多核の骨格筋細胞(筋線維)で構成されており、筋線維内の核数は運動により筋線維周囲の幹細胞(MSCs)の活性化・融合を介して増加することが知られている。本研究では新たな核の追加はエネルギー代謝機構の運動順応に関与するか、また新規に追加された筋核がエネルギー代謝機能の亢進に貢献しうる特定の遺伝子の供給をもたらすか否かを明らかにすることを目的に研究を行った。 申請者は前年度までに新たな筋核の供給源であるMSCsを除去可能な遺伝子改変マウスにおいてMSCsを除去して筋肥大を引き起こす収縮負荷を与えると筋肥大が抑制され、さらにその際、筋肥大に必須であると考えられる筋タンパク質合成の亢進は抑制されないものの、筋線維のSDH活性が著しく低下していることを見出した。最終年度である今年度は、その原因を明らかにするため、MSCs除去によって筋肥大が抑制されている骨格筋のmRNA発現をRNA-seqによって網羅的に評価した。その結果、MSCsを除去したマウスでは収縮を負荷した脚においてPpargc1a発現が著しく低下し、mitochondriaの品質維持に関与することが報告されているMSS51の発現は増加していることを観察した。これらの観察から断片的ではあるが、収縮による筋肥大時に生じるMSCsを介した新たな筋核の供給とmitochondriaの恒常性維持及び収縮に対する順応の間には何らかの因果関係が存在する可能性が示唆された。
|