研究課題/領域番号 |
22K17788
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大塚 愛理 近畿大学, 理工学部, 講師 (80845917)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 心理社会的ストレス / 体熱産生 / 褐色脂肪細胞 / ストレス誘発性体熱産生 |
研究実績の概要 |
本研究は、褐色脂肪組織を介さないストレス誘発性体熱産生の新規経路の解明と、新規体熱産生経路がストレス曝露後の情動行動に与える影響を明らかにすることを目的とする。 本年度は、BAT交感神経切除マウス及びBAT切除マウスにおける社会性評価の解析、および採取したサンプルの解析を中心に行った。前述マウスをSDSに曝露した前後に社会相互試験を行い、マウスの社会性行動の変化を評価した。その結果、Sham手術マウスおよびBAT交感神経切除マウスにおいては社会回避行動がみられ、その一方でBAT切除マウスにおいては社会回避行動がみられなかった。したがって、BAT切除によりおこった生理学的な変化が社会性行動に影響を与えた可能性が示唆された。そこで、これらのマウスにおける生理学的変化を評価するために、ストレスにより変化が報告されている血中カテコールアミンおよび脳内のモノアミンの解析をHPLC-ECDを用いて行った。血中カテコールアミンはどの群においてもSDS曝露により増加し、その濃度には手術による群間差はみられなかった。脳内モノアミンは、体熱産生に関与する視床下部において特徴的な差がみられた。ドーパミン濃度は手術による群間差はみられなかったが、その一方で、ドーパミンの代謝物であるHVAはBAT切除マウスにおいて顕著に高く、ドーパミン代謝比もBAT切除マウスでSham手術マウスおよびBAT交感神経切除マウスよりも有意に高値を示した。したがって、BAT切除により視床下部のドーパミン代謝に変化が起こった可能性がある。しかしながら、この結果はSDS曝露を受けたマウスのみの結果であるため、今後、SDS曝露を受けていない個体における視床下部の解析を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画した実験のうち、ストレス誘発性体熱産生が社会回避行動に与える影響の評価、脳内モノアミンおよび血中カテコールアミンの解析が完了した。また、アドレナリン受容体阻害薬の投与がSDS誘発性の体熱産生に与える影響の予備検討も完了しており、アドレナリン受容体阻害薬の投与により肩甲骨間におけるSDS誘発性の体熱産生が抑制されることも確認している。来年度はアドレナリン受容体阻害薬を使用し、交感神経活性がBAT切除マウスにおける体熱産生機構や社会性行動に与える影響を検討する予定であり、現在予備検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果より、SDS曝露に伴い肩胛骨間の体熱産生の回復、および鼠径部における白色脂肪組織のUCP1発現が起こったBAT切除マウスにおいて視床下部ドーパミン代謝が亢進している可能性が示唆された。視床下部は生体の体温恒常性に関与しており、視床下部におけるD2受容体の活性化がBATの熱産生を増強する可能性が報告されている。したがって、BAT切除マウスにおける視床下部ドーパミン代謝の亢進が肩胛骨間の体熱産生の回復に関与している可能性がある。しかしながら、この結果はSDS曝露を受けたマウスのみの結果であるため、今後、SDS曝露を受けていない個体における視床下部の解析を行う必要がある。次年度は、SDS曝露を受けていない個体における解析を行うのに加え、甲状腺ホルモンや、HPAアクシスの変化も検討する予定である。また、アドレナリン受容体阻害薬の投与を行い、交感神経性の入力の遮断がBAT切除マウスにおける体熱産生機構や社会性行動に与える影響も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部試薬の発注が間に合わなかったため。当該については次年度使用予定である。
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