研究課題/領域番号 |
22K17790
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
松川 隼也 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (00817653)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フルクトース / 肝臓 / 2型糖尿病 / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / インスリン抵抗性 / 脂肪酸合成酵素 / シグナル伝達 / Western diet |
研究実績の概要 |
近年、日本における肥満、2型糖尿病など生活習慣病の罹患者数の増加には「食の欧米化」が深く関わっている。食事が欧米化すると脂質だけでなくショ糖(スクロース)の摂取量が増える。スクロースはブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)から成り、フルクトースは主に肝臓で代謝されるが過剰摂取すると、脂肪酸の新規合成(de novo lipogenesis, DNL)により中性脂肪を増やし脂肪肝を起こし、蓄積したジアシルグリセロールなどの脂質によりインスリン抵抗性を惹起するので、脂肪肝合併2型糖尿病の原因の一つである。脂肪酸合成酵素 (fatty acid synthase: FAS)はDNLの中心的な酵素であり、フルクトース摂取過多により肝臓で発現が増加することから、その肝インスリン抵抗性・脂肪肝に対する病因的役割が想定されるが、その役割の詳細は未解明である。 本年度は、慢性的な肝臓特異的FAS欠損マウスを欧米における肥満のモデルであるWestern diet(高ショ糖高脂肪食:HSHF食)で飼育した際の肥満・2型糖尿病に関連した代謝表現型や肝臓中の遺伝子発現、血液成分の変化を解析した。FASの欠損によりHSHF食によって惹起されるインスリン抵抗性や脂肪肝、肝障害は改善した。この時、肝臓のみならず骨格筋や白色脂肪組織におけるインスリンシグナルの亢進が認められた。この結果は、過食により肥満、2型糖尿病・NAFLDを呈するメラノコルチン4型受容体(Mc4r)を欠損したマウスのバックグラウンドでも同じであった。さらに、Albumin-Cre-ERT2-loxPシステムにより作製したタモキシフェン誘導性肝臓特異的FAS欠損マウスを用いた検討で、脂肪肝合併2型糖尿病の病態が完成した後にFASを欠損させてもインスリン抵抗性や脂肪肝は改善したので、亜急性のFAS欠損による治療効果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主にマウスを用いた個体レベルでの評価を行った。慢性的な肝臓特異的FAS欠損マウスにより、HSHF食により惹起されるインスリン抵抗性や脂肪肝が改善できることを見出した。さらに、Albumin-Cre-ERT2-loxPシステムにより作製したタモキシフェン誘導性肝臓特異的FAS欠損マウスを用いた検討から、HSHF食誘導性のインスリン抵抗性や脂肪肝に対して亜急性のFAS欠損が治療効果を示すことも明らかにできた。FAS欠損により起こるこれら改善効果の作用を担う候補分子をRNA-SeqやDNAマイクロアレイにより見出している。一方で、候補分子の詳細な解析や細胞レベルでのFASの機能を評価する実験はまだ実施できていないこともあり、「おおむね順調に進展している」という判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
FASは脂肪酸合成に関与する酵素なので、インスリンシグナルに影響を与える要因として、組織中のジアシルグリセロールやセラミドレベルの質的変化(脂肪酸組成の変化)が想定される。肝臓や骨格筋などインスリン抵抗性が認められた臓器のリピドミクス解析を実施することで、脂質の質や量的変化が与える影響について評価する。 また、RNA-SeqやDNAマイクロアレイにより同定した、FAS欠損により起こる効果(インスリン抵抗性や脂肪肝改善効果の作用)を担うと想定される分子の機能について解析も行う。具体的にはFAS欠損マウスで候補分子をノックダウンあるいは過剰発現した際のインスリン抵抗性や脂肪肝改善効果を評価する。さらに、初代培養肝細胞を使用しその分子がいつ、どのようなシグナル経路を介して誘導されているのかや、フルクトースとの関りについて検討を行う予定である。
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