近年、日本における肥満、2型糖尿病など生活習慣病の罹患者数の増加には「食の欧米化」が深く関わっており、特に果糖(フルクトース)の摂取量の増加が大きな要因である。脂肪酸合成酵素 (fatty acid synthase: FAS)は脂肪酸の新規合成(de novo lipogenesis: DNL)の中心的な酵素であり、フルクトース摂取過多により肝臓で発現が増加することから、その肝インスリン抵抗性・脂肪肝に対する病因的役割が想定されるが、その役割の詳細は未解明であった。 本研究課題では慢性的な肝臓特異的FAS欠損マウスを欧米における肥満のモデルであるWestern diet(高ショ糖高脂肪食:HSHF食)で飼育した際の肥満・2型糖尿病に関連した影響を解析した。FASの欠損によりHSHF食によって惹起される耐糖能異常やインスリン抵抗性や脂肪肝、肝障害は改善した。この時、肝臓のみならず骨格筋や白色脂肪組織など全身のインスリンシグナルの亢進が認められたが、この現象には脂肪酸酸化や糖新生に関連した遺伝子の発現量の変化やPKC epsilonの細胞膜移行は関与していなかった。この結果は、過食により肥満、2型糖尿病・NAFLDを呈するメラノコルチン4型受容体(Mc4r)を欠損したマウスのバックグラウンドでも同じであった。さらに、Albumin-Cre-ERT2-loxPシステムにより作製したタモキシフェン誘導性肝臓特異的FAS欠損マウスを用いた検討で、脂肪肝合併2型糖尿病の病態が完成した後にFASを欠損させてもインスリン抵抗性や脂肪肝は改善したので、亜急性のFAS欠損による脂肪肝合併2型糖尿病の治療効果が示された。
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