子宮内で低栄養や低酸素に晒され胎児発育不全(FGR)となった児は、発達障害のみならず、生後の血糖異常や将来のメタボリックシンドローム(MetS)発症のリスクが高い。しかし、FGRに伴う血糖異常やMetS発症の病態やその機序は未だに解明されていない。我々は、胎児が胎内での低酸素および低栄養の環境に対し脳を保護するために適応しようとする過程にHypoxia inducible factor (HIF)が関与しており、この適応過程が生後の血糖異常や将来のMetS発症に繋がるという病態仮説を考えた。本研究の目的は、FGR胎児の低酸素および低栄養に対する適応過程に、HIFがどのように関与し、それがどのように脳保護に寄与し、そして生後の血糖異常や将来のMetSなどの病態にどのように影響しているのかを明らかにすることである。 我々は、FGRのモデルラットを用いて、FGRでは脳で優先的に糖を取り込もうとする適応過程が働いている反面、他の臓器ではインスリン抵抗性が生じていることを示した。この結果から、FGRの児が、子宮内の低酸素・低栄養という環境に適応して脳を守ろうとしている過程が、生後の血糖異常や将来のメタボリックシンドロームの病態へと繋がっている可能性が示唆された。今回の結果は、FGRの胎児が脳を優先的に保護するためのメカニズムを、内分泌学的な視点から示した初めての成果である。この成果は、FGRの胎児における脳保護メカニズムと、FGRに伴う生後の血糖異常や将来のMetS発症といった様々な病態の解明へ向けたさらなる研究への基盤となる。また、生後のより良い血糖管理戦略や、ひいては発達障害やMetSの予防に繋がっていくことが期待できる。
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