本研究では、fMRIとMRI対応非磁性体エルゴメータを用いて運動時及び運動前後の脳活動パターンを評価し、超低強度運動(最大酸素摂取量の37%以下)による気分及び認知機能向上効果の脳内メカニズムの一端を明らかにすることを目的とする。2年間計画の2年目である2023年度は、実験及びデータ分析を行った。実験は、運動時のMRI計測を行うMRI実験と、MRI計測は行わず、運動前後の認知機能の変化を測定する認知実験の2つの実験を別日に実施した。どちらの実験も同一の被験者を対象とした。 【MRI実験】MRI対応エルゴメータを用いて12分間の運動を行った。運動強度を被験者ごとに正確に規定するため、事前の運動負荷試験によりVO2peakを測定し、その30%(超低強度)になるように運動負荷を決定した。体動ノイズを抑制するため、確立した手法により頭部を固定し、運動前・運動中・運動後に全脳をEPI法により撮像した。運動前後の気分を二次元気分尺度(TDMS)により測定した。 【認知実験】10分間の超低強度運動の前後にStroop課題及び類似物体を用いた再認課題を課し、前頭前野や海馬の認知機能の変化を測定した。加えて、脳幹を起点とした神経調節系のマーカーとして、アイトラッキングシステムにより瞬目率や瞳孔径を計測した。今後、運動前後の認知機能の変化と運動時脳活動変化との相関性を見ることで気分や認知機能への運動効果の脳内メカニズムを探索する。 【結果】超低強度運動により気分は向上したが、認知機能(実行機能及び記憶能)に変化はなかった。MRIデータは運動時の体動による影響を多く受けることから、全例を対象とした分析は困難であったが、体動の少ない者を対象にした限定的な分析の結果から、海馬と認知・運動関連領域を含む他の領域との機能的結合は、運動前と比較して運動後に強化される傾向が見られた。
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