研究課題/領域番号 |
22K17811
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐藤 元律 順天堂大学, 代謝内分泌学, 助教 (60931087)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リピッドスピルオーバー / 脂肪組織インスリン抵抗 / 糖代謝異常 |
研究実績の概要 |
本研究では、非肥満東アジア人がリピッドスピルオーバーを来してしまう環境・遺伝的要因を探索し、新規の代謝血管障害予防法の開発を検討することを目的としている。 以前行った若年女性コホート(150名)の研究で、低体重女性の耐糖能異常者はインスリン分泌が低下しているだけでなく、空腹時遊離脂肪酸が高く、脂肪組織インスリン抵抗性(Adipo-IR;空腹時遊離脂肪酸×空腹時インスリン値)、インスリン抵抗性が高いことを明らかにした(若年低体重糖代謝異常者はリピッドスピルオーバーが容易に起き、それが糖代謝異常やインスリン抵抗性と関連することを明らかにした)(JCEM. 2021 Apr 23;106(5):e2053-e2062.) 。令和4年度は、同研究の環境因子、身体的・代謝的特徴を解明するために更なる解析を行った。低体重女性(98名)を脂肪組織インスリン抵抗性毎に3群に分け、それぞれの身体的・代謝的特徴を探索した。その結果、脂肪組織インスリン抵抗性が高くなるにつれ、血糖値・インスリン・Cペプチドが高くなっていき、糖代謝異常の比率とインスリン抵抗性も高いことが判明した。また脂肪組織インスリン抵抗性高値群の身体的特徴として、年齢が有意に若く体脂肪率が高いことが分かった。代謝的特徴として成長ホルモンやDHEA-Sも高くなることが判明した。本解析は現在論文化に向けて執筆中である。 今後、閉経後女性コホート(約150名)、中年非肥満コホート(約100名)、高齢者コホート(約1600名)のデータベースを用いて(JCEM 2016, 2021. BMJ Open., 2019)、順次解析を行い、脂肪組織インスリン抵抗性の要因を解明していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、非肥満日本人のインスリン抵抗性の本質的な原因の一つに、肥満者にしか生じ得ないと考えられてきた脂肪組織機能障害の一つであるリピッドスピルオーバーが関与する可能性があることがわかりその環境・遺伝的要因を探索し、新規の代謝血管障害予防法の開発を検討することを目的としている。 前年度は、以前行った若年低体重女性のコホート研究を脂肪組織障害・リピッドスピルオーバーの観点から再解析行い、関連する身体的特徴、環境要因を探索した。 同様の手順を他のコホートにも行っていく予定であるが、前年度は非肥満日本人のリピッドスピルオーバーの理解に重要なコホートの再解析を完了し、論文執筆中であり、研究課題の進歩状況としては概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、引き続き、若年女性コホート(約150名)、閉経後女性コホート(約150名)、中年非肥満コホート(約100名)、高齢者コホート(約1600名)のデータベースを用い(JCEM 2016, 2021. BMJ Open., 2019)、リピッドスピルオーバーの指標となる空腹時遊離脂肪酸や脂肪組織インスリン抵抗性 (Adipo-IR) と各種生活習慣に関連するパラメーターの関連性を検証する。また、全ゲノム一塩基多型解析を行い、データベース化されているため、テーマ②で挙げられた候補遺伝子とリピッドスピルオーバーなどとの関連性も検証する。
テーマ② 東アジア人におけるlipodystrophy phenotypeに関するGWAS 日本、あるいは海外の公的データベースで公開されている、東アジア人を対象としたゲノムデータと試料の解析データを活用し、解析を行う。リピッドスピルオーバーの定義として空腹時の遊離脂肪酸やインスリン値が用いられるが、GWAS解析が可能となるデータベースではそれらのデータが欠損している場合が多い。したがって、今回の解析では、すでに過去に欧米人で解析が進められ、リピッドスピルオーバーと密接に関連しているlipodystrophy phenotype(Lotta et al. Nat Genet., 2017)を空腹時インスリン、血中トリグリセリド、HDL-コレステロールにより定義し、それに関連する遺伝子多型を網羅的に検出するゲノムワイド関連解析(GWAS)を行う。続いて、GWASの結果を用いて「遺伝的リスクスコア(GRS)」を作成し、その予測能やリピッドスピルオーバーとの関連性を前述の我々のコホートや、公共のゲノムコホートで調査する。
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