研究課題
ミトコンドリアストレスの1つであるUPRmtは、不要ミトコンドリアタンパク質の成熟異常・蓄積により惹起される代表的なミトコンドリアストレス応答である。UPRmtを契機に、核DNAからGDF15やFGF21などの生理活性物質(ミトカイン)が転写・翻訳され、細胞外に放出されることで、生体の酸化ストレスや炎症を軽減することが知られている。申請者らは、ミトコンドリアタンパク質の成熟化に必要なMIPEPを脂肪特異的に欠損させたマウス(aMKOマウス)を作製し、aMKOマウスがLPSによる致死性の全身炎症に抵抗性を示すことを明らかにしている。そこで、本研究課題では、このaMKOマウスがミトカインの放出を以て全身性炎症に対して防御的に働く、ミトホルミシスモデルになると考え、この詳細を解明することを目的に研究を行っている。昨年度には、aMKOマウス由来脂肪組織を用いたRNA-seqおよびDAVIDを用いたエンリッチメント解析を行った。その結果、aMKOマウス脂肪組織で有意に増加する遺伝子群には免疫・炎症系関連であることが分かった。さらにaMKOのWATでは、マクロファージマーカーであるF4/80と単球走化因子であるMcp-1のmRNA量が増加した。また、aMKOマウスの血中で、ミトカインを含む生理活性物質の種類や量を定量するために、ミトカインを含む生理活性物質(全111種類)の抗体をスポットしたメンブレンアレイを用いて測定を行った。その結果、aMKOマウスの血中で増加する、32種類の生理活性物質を同定した。今後は、同定したミトカインを含む生理活性物質がLPS耐性に及ぼす影響について解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
LPSによる個体死の原因は、急性の肺障害が原因であることが知られている。aMKOマウスは、脂肪細胞でしかMIPEPが欠損されていないにも関わらず、肺を含む全身の急性障害に耐性を持つ事から、血中に何らかのメディエーターを放出するのではないか考えた。さらに、前述のとおりmtUPRはミトカインを産生・放出することが知られている。aMKOマウスで増加するミトカインを32種類同定できたことは、今後の解析に重要な資料となった。一方、aMKOマウスにおけるLPS抵抗性メカニズムについては、マウスが自家繁殖であり、必要とするgeotypeの匹数に限りがあったため、予定より解析が進まなかった。
aMKOマウスのミトホルミシス機構の解明のために、LPS投与したaMKOマウスの解析に注力する。自家繁殖計画は既に見直し済であり、今年度は実験に必要な匹数を確保できる。特ににLPS投与したaMKOマウスの全身の臓器(特に肺・肝臓)の病理解析と、その病態に関する生化学的な実験を行うことにより、aMKOマウスが誘導する抗炎症作用の全容を探る。さらに昨年度同定したミトカインについては、それぞれの量・存在比がLPS抵抗性に関与する可能性があるため、この量比を変えた数通りのサイトカインミックスが、臓器の抗炎症反応に及ぼす可能性について解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Experimental Gerontology
巻: 164 ページ: 111821~111821
10.1016/j.exger.2022.111821
International Journal of Molecular Sciences
巻: 23 (3) ページ: 1793
10.3390/ijms23031793