本研究課題では、D-アミノ酸の腸細胞にたいするオートファジーの制御機構について解析し、タンパク質代謝に及ぼすD-アミノ酸の生理機能を分子レベルで理解することを目的としている。まず、D-アミノ酸のオートファジーへの影響を腸細胞にてスクリーニング解析し、オートファジーを活性化するD-アミノ酸を数種見出した。これらD-アミノ酸のオートファジーは豊富なL-アミノ酸の存在下でも誘導されたことから、非栄養因子としてオートファジー制御に作動するD-アミノ酸のセンシング機構の存在が想定された。そこで、オートファジーを活性化するD-アミノ酸について、ゲノムワイドなトランスクリプトーム解析を実施し、in silico解析から細胞内シグナルへの作用を解析したところ、遺伝子の発現変動から特定のシグナルへの関与が示唆された。近年、微生物の発酵作用を利用した醸造物には、D-アミノ酸が豊富に存在することが報告されており、発酵食品の有する腸への健康機能との関連も注目されている。そこで、D-アミノ酸を豊富に含む発酵食品に着目し、食事由来のD-アミノ酸を含めた成分が腸細胞のオートファジーに与える影響をスクリーニング解析した結果、単体のD-アミノ酸よりも強いオートファジー活性化作用を有する発酵食品を数種類見出した。含有成分の分析から、発酵食品の有するD-アミノ酸や共存する成分の含有比がオートファジー調節に機能することが示唆された。また、これらD-アミノ酸を豊富に含む発酵食品のオートファジー活性化でも、一般的な栄養飢餓シグナルとは異なるメカニズムの存在を示唆する結果が得られた。
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