最終年度は、昨年度実施したトランスクリプトーム解析、ATAC-seqとその情報をもとにしたモチーフ解析などから絞り込んだ転写制御遺伝子の候補について、各老化段階にあるMEFでの正確な発現レベルをRT-qPCR法によって確認し、レンチウイルスを用いたノックダウンを試みた。その結果、shRNAによる候補遺伝子のノックダウンは成功したが、SASP因子の発現に対する影響を評価するには至らなかった。原因としては、レンチウイルス感染による細胞内の感染応答が原因だと考えられる。したがって、効率と効果時間は劣るがリポフェクション法など感染応答が起きにくいと予想される遺伝子導入法の検討が必要であることが明らかとなった。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、これまで細胞老化の進行とともに上昇し続けると考えられてきたSASP因子のうち、多くのものが実は一過的に発現してそのあと発現量が低下するという興味深い挙動をとらえたこと、またその中で同調した発現パターンを示す遺伝子群がみられることを明らかにした。さらに、網羅的なエピジェネック解析と通し、細胞老化の進行とともにオープンになるクロマチン領域があること、その領域に結合する可能性のある転写制御因子のうち、着目したSASP因子と同じ発現パターンを示すものが存在することなどを突き止めた。これらの現象は、細胞老化あるいはその悪性形質の実態であるSASPを制御する上で、非常に有益な知見であると考える。 またp16hCD2マウスを用いた組織中の老化細胞の評価では、T細胞老化のひとつであるp16陽性T細胞集団の可視化と除去に成功し、加齢とともに増加するこの細胞集団が免疫老化の表現型の一部に関与している可能性を示唆することがわかり、論文として発表することができた。
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