前年度までで、アレイによってmiRNAの解析を行い,SAMP8の脳幹で特異的に発現が亢進していたもの(miR-491-5pとmiR-764-5p),または低下していたもの(miR-30e-3pとmiR-323-3p)を同定した。今年度はこれらのmiRNAが脳幹,海馬,大脳皮質の順に発現が段階的に変化していることを示すことができた。miR-491-5pの発現レベルの変化は脳幹で病理学的に変性が先行していることからも、認知機能の変化に先行することを示している可能性が考えられた。miR-764の過剰発現は、NINJ2 発現を調節することによってニューロンの成長のプロモーターとして機能したことが考えられた。miR-764-5pはSAMP8マウスの脳幹で上方制御されており、これは神経細胞のアポトーシスが脳幹で誘導され、その結果、加齢に伴う変性が最初に脳幹で起こる可能性が高いことが示された。miR-30e-3p の下方制御はホスファターゼおよびテンシンホモログ(PTEN)機能を活性化し、中枢神経系でアポトーシスを誘導する可能性があることが示された。これより、大脳や海馬に先行して脳幹でアポトーシスは発生する可能性が高いと推測できた。miR-323-3pは、in vitroおよび細胞内生理学的条件下でAPP発現を低下させることが報告されており、APPの蓄積はアミロイドβの過剰産生、蓄積、沈着を引き起こし、最終的にはニューロン死につながる。以上からなんらかの加齢性変化のトリガーが脳幹から生じている可能性が考えられた。本研究では脳幹より吻側の部分的な評価であり、脳幹より末梢の組織からの変性の起点も考えておかなければならない点は今後の課題である。
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