研究課題/領域番号 |
22K17836
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田島 彩沙 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20780688)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ドコサヘキサエン酸 / DHA / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびDHA代謝産物の抗動脈効果の機序を解明することを目的とし、血管内皮細胞とマクロファージを用いた動脈硬化発生のモデル系を作成して解析を行っている。血管内皮細胞に酸化ストレスを与えた時に発生する活性酸種(ROS)に対して、エイコサペンタエン酸(EPA)の100分の1の低濃度のDHAがROS生成を顕著に抑制するメカニズムを解析している過程で、極めて興味深い知見を得た。DHAのROS生成抑制作用には、 個体差(臍帯の由来が異なる血管内皮細胞間で反応が相違する)が存在し、DHAに全く反応を示さない細胞(non-responder)があること、そしてDHAでROS生成抑制効果を発現した細胞においても継代を重ねていくと、やがて作用の減弱・消失が見られることが判明した。そこで、異なる組成を有する種々の培地を用いて培養条件を検討したところ、ある種の培地で培養を行なった血管内皮細胞においては、DHAのROS生成抑制効果が再び発現されるようになること、またnon-responderにおいても本作用の発現が認められることを確認した。これらの事実から、DHAのROS生成抑制作用の発現には、細胞内に存在し変動し得る何らかの物質の関与が必須であると考えられ、現在その物質の特定を行なっている段階である。その物質の存在が明らかになれば、DHAの抗動脈効果をより確実なものにでき、臨床適用の可能性が高まるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、当初予定されていたDHA代謝産物による作用を考えていたが、DHA自体の直接的作用である可能性が出てきたため、その作用機序を明らかにすることを目的として研究を進めてきた。これまでに、DHAによるROS産生抑制効果に対する最適な濃度と時間の検討を進め、さらにはDHAが核内受容体を介してROSの産生を抑制していることを明らかにした。まだ、DHA代謝産物による作用を完全に否定することはできないが少なくともいくつかの代謝産物の可能性は否定された。また、DHAの効果が見られない個体(non-responder)に関しても、培養培地の成分をコントロールすることにより有効となることを見出した。これは、DHAが有効でない人に対しても、その培地と同様の成分を同時に摂取することで効果が見られる可能性を示しており、非常に意義のある発見である。現在、その作用機序についての解明を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ROS産生抑制が動脈硬化に及ぼす影響を単球細胞と血管内皮細胞の共培養系モデルで確立したため、その系を用いてDHAの作用およびnon-responderに対する有効性に関する検討を進めていく予定である。 それらの結果が明らかとなったのちは、学会での発表および論文での報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびDHA代謝産物の抗動脈効果の機序を解明することを目的として研究を進めてきた。しかし、これまでの研究結果からDHA自体の直接的作用である可能性が出てきたため、本年度はその作用機序を明らかにすることに焦点を絞って研究を行った。その結果、細胞培養試薬やDHA代謝酵素阻害剤などの使用を大幅に節約することができ、予算に余裕ができた。一方、DHAの効果が見られない個体(non-responder)に関する研究を進めていくうちに、non-responderに対する作用に関するさらなる解析の必要性が出てきたため、次年度にその解析を進めることとなった。よって、次年度に研究費使用額が生じた。 ROS産生抑制が動脈硬化に及ぼす影響を単球細胞と血管内皮細胞の共培養系モデルを用いてDHAの作用およびnon-responderに対する有効性に関する検討を進めていく予定であり、それによって必要となる消耗品・試薬費および、学会・論文による成果発表の費用に使用する予定である。
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