研究課題/領域番号 |
22K17903
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寺原 拓哉 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (10875305)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | T-spline / Heart Valve / Isogeometric analysis / ST-SI-TC-IGA |
研究実績の概要 |
本研究では生体由来の心臓弁、人工弁、機械弁など個別の心臓弁に適用可能な高精度流体解析手法の構築を目指す研究である。本年度は、アイソジオメトリック解析においてT-splineの技術を用いた局所的な細分化を実際の人工弁の流体解析に適用した。さらに、心房と心室の間に位置する房室弁は、比較的柔軟で大きな弁尖を有しており、心臓壁から伸びる腱索とよばれる紐状の組織によって支えられ開閉をしている。アイソジオメトリック解析によって房室弁の動作を再現するにあたって、B-splineで表現される形状と格子点の位置が異なることから、弁尖部分の格子点をそのまま用いて腱索部分の一部を表現することが難しいという問題がある。この点を解決した。 人工弁の流体解析研究では実際に使用されているウシの心膜により作られた形状と、流体構造連成解析で得られた動作を基に流体解析を行った。弁尖同士が接触する瞬間、また離れる瞬間の流れの変化を正しく捉えるため、境界適合格子を用い、ST-SI-TC-IGA法を用いて解析を行った。この解析格子は2次のB-splineで表現されており、本研究ではT-splineの基底関数を用いて弁尖の境界層部分を従来の8倍の解像度に変更した。局所的な細分化が可能となったことで、全体の制御点数に対して、従来の解像度による解析と流れ場を比較し、細分化による効果が開口時の弁尖近傍の流れ場に現れることを確認した。 房室弁と腱索の接続研究ではアイソジオメトリック解析における2次元構造物と1次元構造物を接続することを実現した。T-splineの技術を応用し、2次元構造物の基底関数を用いて1次元構造物の基底関数を表現した。さらには、2次元構造物と1次元構造物間に高次の連続性を持つ表現も可能とした。本手法は心臓弁のみならず宇宙船用パラシュートのような工業応用が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では心臓弁周囲の流れ場を高精度に解析するためB-splineで表現された境界適合格子を用いる。その上で、心臓弁周囲の流れ場に合わせ、適切な細分化を行うためにT-splineの基底関数を用いる。その細分化を実現するため、3次元の解析格子に対して、T-splineによる局所細分化を可能とした。これはパッチと呼ばれる、B-splineのブロックごとに任意のノットを挿入する細分化が可能である。 心臓弁には、心室と動脈の間にある動脈弁の他に、心房と心室の間にある房室弁がある。房室弁は動脈弁と異なり、心室壁から伸びる腱索と呼ばれる紐状の組織で支えられている。房室弁の動作を再現するためには、腱索との力学関係を正しく表現する必要がある。アイソジオメトリック解析においては、格子点の位置が表現される形状と一致しないため、格子点をただ共有するだけでは正しい接続を表現できない。本研究ではB-splineの上位互換であるT-splineの技術を応用し、接続部における2次元構造物の基底関数を用いて接続される1次元構造物の基底関数を表現した。これによりアイソジオメトリック解析において弁尖と腱索の接続を可能とした。ここではさらに組織がなめらかに接続する弁尖と腱索間を基底関数がなめらかに接続された状態を表現することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまでに3次元のアイソジオメトリック解析格子において局所的な細分化が可能となったが、現在は細分化箇所を指定している。今後は局所細分化部位を自動で決定する手法について構築する。ここでは、形状で決めるのが良いのか、流体場の加速度や渦度といった情報を用いるのが良いのかなど細分化の判断基準となる指標を明らかにする必要がある。 心臓弁には人工弁や機械弁、生まれながらに備わっている心臓弁そのもの、その中でも動脈弁と房室弁では表面の凹凸の状態が異なる。表面の凹凸が表現できる範囲については境界の形状として表現するが、細かいものについては表面粗さとして扱う。そのためのテスト問題を生成する。 心臓弁周囲の流れ場の現象は弁の開閉の瞬間に急激に変化する。この変化を正しく見積もることが重要となる。これまでの心臓弁の流体解析を用いて、弁開閉の瞬間における時間の細分化を行い、どのくらいの時間解像度が必要となるのか調査する。 房室弁において弁尖と腱索の接続を表現することが可能となった。今後はこの技術を用いて、僧帽弁の流体構造連成解析も目指す。このとき、弁尖と腱索間の接続表現に適した連続性を調査する。さらに流体場内における腱索の影響についても調査する。調査結果により、腱索を解像する必要があるか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に国際学会発表のため、米国への渡航を計画していたため。その他にスーパーコンピュータを含む計算機に接続して使用するローカルコンピュータを購入する。また、スーパーコンピュータの使用料を支払う。
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