研究課題/領域番号 |
22K17996
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
最田 裕介 和歌山大学, システム工学部, 講師 (30708756)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強度輸送方程式 / 位相イメージング / 偏光ディレクトフラットレンズ / 空間光変調器 / 偏光多重 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,それまでに開発してきた単一露光強度輸送定量イメージング法のさらなる高性能化・高機能化を目的として,光エネルギー効率および中間データとして使用するデフォーカス撮影像データの品質の向上と,偏光の性質を利用したデフォーカス像の増加による最終的な位相計測精度の向上の二つを主な目的としている.2022年度は前者への取り組みはほとんどなく,後者の検討を中心におこなった. 提案法では,特殊なホログラムパターンによる光の変調を利用して,撮像素子面の領域を九つに分割し,中心に表れる合焦像のまわりに八つの異なるデフォーカス像を一度に取得し,これらを用いて位相分布を計測している.さらに異なるデフォーカス像を増加させることにより計測精度の向上が期待できるが,撮像素子面の領域は有限であり,単純にその分割数を増やすだけではそれぞれのデフォーカス像に割り当てられる画素数が低下,すなわち取得されるデフォーカス像の品質低下につながり,計測精度の向上は見込めない,もしくはその効果が限定的である.そこで本研究課題では偏光の性質に着目し,直交する二つの偏光に対して焦点距離が異なる偏光ディレクトフラットレンズにより従来の八つのデフォーカス像を多重化して2倍にすることを検討した.まず,コンピューターによるシミュレーションで当該素子を用いることで直交する偏光として2倍の像が生じるかどうかを検証したが,現状保有するものでは焦点距離が長すぎるため適切な調整が困難であった.そこで,偏光依存性のある空間光変調器をこの素子に替えて使用することを想定して同様のシミュレーションをおこない,所望の像が得られることが確認できた.しかし,これを用いて計測された位相分布は従来のものと同等,もしくは劣るものであった. 次年度以降は,この原因を追究し精度の向上に努める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題において掲げていた二つの検討事項のうち一つは期待していた結果に至らなかったものの概ね検証ができたといえ,進捗としては順調に進展していると評価してよいと考えている.デフォーカス像の増加が達成できたにもかかわらず計測精度の向上に至らなかった原因は,検出の際に偏光カメラを使用したためであるといえる.偏光カメラは通常の撮像素子の画素のうち,2×2の4画素の単位に異なる四つの方向の偏光を通過させる偏光子が取り付けられており,各偏光の情報は対応する方向以外の画素では取得できない.つまり,通常の撮像素子を使用する場合と比較して,有効な情報量が4分の1になってしまう.欠落した情報は隣接する画素の情報をもとに補間処理をおこなうことでまかなうが,これによって取得されるデフォーカス像が本来のものと差異があったため計測精度の低下につながったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,前年度までに実施しなかった光エネルギー効率およびデフォーカス像品質の向上に取り組むと同時に,並行して偏光の性質を用いた計測精度向上についてさらに追究する. 前者については,研究計画通りまずは単一の空間光変調器を用いた光の振幅と位相の両方を変調する手法の導入により性能の向上を検討する.その後,シミュレーションにより振幅・位相の両変調が可能な素子の導入による大幅な性能改善が見込めれば,加工業者に光学素子を特注し,実験系の構築を進める. 後者については,計測精度が向上しなかった原因と見込んでいる偏光カメラによる欠落画素の情報の補間方法を改善することで,デフォーカス像の品質低下を最小限に抑え,これにより全体的な計測精度の向上を達成できないかを検討する.また,現状では偏光カメラの有効画素のうち,垂直方向と水平方向の偏光成分を取得する画素しか活用できていないが,残りの画素の活用によりさらなる精度向上が見込めないかについても検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況により研究成果の発表が想定より少なかったことに加え,シミュレーションによる検討が中心となり実験にまで至らず,当初必要と考えていた装置や素子の購入を見送ったので次年度使用額が生じた. 2023年度は,より多くの成果発表に加え,実験準備も進めて計画的に経費を執行する予定である.
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