本研究課題で着目した方法では,光の空間強度分布を変調するパターンを設計し,これを用いることで撮像素子面上で上述の合焦位置違いの像を同時に得ることができ,さらにそれらを用いて位相分布を高精度に計測できる.本研究課題では,この方法のさらなる高性能化・高機能化を図ってきた. 2022年度は偏光の性質を利用して,上述の像をさらに異なる合焦位置違いで取得できるように検討した.当初は二つの直交する偏光状態に対して異なる焦点距離で作用する偏光ディレクトフラット(PDF)レンズとこれら偏光を分離して検出できる偏光カメラを用いて,得られる像を多重化して2倍にすることを考えたが,PDFレンズでは所望の作用を得られず,偏光依存性をもつ空間光変調器(SLM)で代用した.SLMは任意の変調を与えるように制御できるためこの問題は克服できた.しかし,偏光カメラは直交する各偏光成分を空間分割的に取得するため,欠落した面内情報の影響で計測された位相分布の精度が低下し,目論んだ性能向上は見られなかった. 2023年度は前年度の課題の解消のために,偏光カメラで取得される欠落画素のある画像データをどう補間するかについて検討を重ねた.偏光カメラでは0度と90度方向の直線偏光に加えて45度,135度の四つの偏光情報を取得可能であるが,SLMで変調した光はこのうち0度と90度であり,取得できる情報の半分しか利用できていなかった.この点に着目し,利用できていなかった45度と135度の偏光情報も活用して欠落画素の情報を補間することを検討した.この結果,やや改善はしたものの劇的な向上には至らず,単純に偏光により情報を増やすだけでは性能向上に不足しているということがわかった. また,光エネルギー効率と取得される像の品質向上のために,変調パターンの実現方法についてもフォトポリマー材料の使用など多角的に検討は進めたが,現状は良好な解決策には至っていない.
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