研究課題/領域番号 |
22K18019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
沼舘 直樹 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (20850100)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 気液界面 / 光化学反応 / 脱離生成物 / レーザー誘起蛍光法 / 光反応断面積 |
研究実績の概要 |
海洋表面や大気エアロゾルの表面に存在しているノナン酸(炭素が9個の飽和脂肪酸)の太陽紫外線による光分解反応は、対流圏における新たなOHラジカル生成源として大気化学分野にて注目されている。しかし、実験の難しさから室内実験においては液体ノナン酸の光分解反応の定量どころか初期反応生成物であるOHラジカルの直接検出すら行われていなかった。 我々はレーザー誘起蛍光法(Laser-induced fluorescence, LIF)を利用することで液体有機物の光反応初期生成物を直接検出する装置を開発した。そして、本研究では液体ノナン酸の213 nm光分解に伴うOHラジカル脱離過程を定量することに成功した。実験チャンバー内に液体ノナン酸を導入し、真空ポンプにてLIF法が適応可能な低真空状態まで排気した。Nd:YAGレーザの5倍波(213 nm)を液体ノナン酸に照射し、液体界面から気相へと脱離したOHラジカルを282 nmレーザーを用いたLIF法により直接検出することに成功した。また、光吸収断面積とOHラジカル生成の量子収率が既知である気相酢酸の光分解実験の結果と比較することで、世界で初めて液体ノナン酸界面の213 nm光分解に伴うOHラジカル脱離過程を定量することにも成功した。 また、筑波大との共同研究として行った和周波発生分光測定により、液体ノナン酸界面ではノナン酸分子が二量体を形成していることが明らかとなった。気相カルボン酸は二量体を形成することで紫外光分解によるOHラジカル生成確率が減少することが知られている。本研究にて測定した液体ノナン酸界面の光反応性は気相酢酸と比較して100分の1以下と極めて小さく、これは液体界面における二量体形成が要因であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主たる目的である液体ノナン酸の光分解に伴うOHラジカル脱離過程の定量法の確立に成功したことから順調に進展していると判断した。本研究成果は物理化学分野において著名なJournal of Physical Chemistry Letters誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は液体ノナン酸の光反応断面積の波長依存性を測定する。カルボン酸は210 nm付近に吸収のピークを持ち、可視光領域に近づくにつれて吸収断面積が急激に低下する。それに伴いOHラジカルの生成数も減少することが容易に予測される。そこで、前置増幅器と波高弁別器を用いた光子計数法を導入することでOHラジカル検出感度の向上を図る。また、第2高調波発生ユニットの追加により紫外領域(>210 nm)まで適応可能とした波長可変パルス光パラメトリックレーザーを使用することで、太陽光波長(>295 nm)を含む紫外可視領域における光反応性の定量に挑戦する。これにより、対流圏におけるノナン酸の光分解反応の重要性を定量的に評価する。
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