研究課題/領域番号 |
22K18051
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
日野 彰大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90908782)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 海洋生分解 / マイクロプラスチック / 多環式芳香族化合物 / 抗菌 |
研究実績の概要 |
本研究では,海洋での生分解性マイクロプラスチック(MP)発生要因の一つとして,非相溶系生分解性複合材料における相分離構造に着目し,生分解性複合材料によるMPの発生と蓄積可能性について検討する。これにより,海洋中へMPを蓄積させない生分解性プラスチック複合材料の設計を可能にすることを目的としている。研究2年目である本年度は,MPの蓄積可能性に関連して,生分解性プラスチックへの多環式芳香族炭化水素の吸着と生分解性に及ぼす影響について検討した。 多環式芳香族炭化水素(PAHs)は,自動車の排気ガスやタバコの喫煙などから環境中に放出されており,海水中でも検出されている。プラスチックは比較的疎水性が高いため,PAHsを容易に吸着すると予想される。PAHsが有する毒性や疎水性によって,表面吸着後に生分解性が低下することが懸念される。そこで本年度は,PAHsの吸着による生分解性に対する影響について検討した。 樹脂はポリ-ε-カプロラクトン(PCL, Mn:80000)を選択し,PAHsとしてピレン・アントラセン・フェナントレン・テトラセン,抗菌性のポジティブコントロールとしてヒノキチオール(檜由来の抗菌性成分)の含有サンプルを溶媒キャスト法で作製した。このフィルムの抗菌活性・接触角を測定し,さらに各種フィルムを凍結粉砕したサンプルを海水BODに供して,それぞれの関係性を検討した。 その結果,生分解性プラスチックがある濃度範囲でPAHsを吸着・含有し,表面が抗菌性を示す場合,一時的に生分解速度が低下することがあるが,生分解性に対する影響は少ないことがわかった。また,抗菌成分の溶出速度も関連していると示唆される結果を得た。生分解性に影響があるPAHs濃度範囲は今後検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた通り,PAHsの吸着による生分解性に対する影響について,海水BOD試験によって検討した。この結果を学会で1件報告した。さらに,相分離構造を持つ生分解性材料の生分解挙動に関するデータを取得するため,準備を進めることができた。したがって,当該研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も引き続き,非相溶系相分離構造を有する材料を用いて,MPの発生メカニズムの解明を目指す。次年度は特に,相分離構造を有する材料を生分解試験に供し,生分解を受ける前後のサンプル表面を電子顕微鏡等を用いて直接観察し,相分離構造の変化の差異を評価することに注力する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
諸事情により学会発表の機会が想定より少なく旅費が抑えられたため,次年度使用額が生じてしまった。次年度は設備を導入する予定にしているが,近年の物価高による値上げ分として補填する予定である。
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