研究課題/領域番号 |
22K18061
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤井 祥万 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特任助教 (80881200)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エネルギーフロー / エクセルギーフロー / 熱融通 |
研究実績の概要 |
本研究は①基礎自治体単位の温度情報を組み込んだ地域エクセルギーフローの作成と妥当性評価,②温度領域別の熱融通技術の効率定義,③地域の熱の脱炭素ポテンシャルの評価と技術改善項目へのフィードバックから成る.今年度は主に①の基礎自治体レベルのエネルギーフローおよびエクセルギーフローの開発を目指した.各県の都道府県別エネルギー消費統計をベースデータとし,各基礎自治体レベルの各部門のエネルギー消費は活動量指数として従業員数もしくは事業所数を用いて按分した.47都道府県のデータを参考に,産業部門および燃料種ごとに相関が高い指標を活動量指数として用いた.再生可能エネルギーの情報は電力については固定価格買取制度で公表されている導入容量データから,総合エネルギー統計で公表されている自家消費率,再生可能エネルギー関するゾーニング基礎情報での稼働率等を用いて算定した.さらにバイオマスについては独自のデータベースを構築して組み込んだ.以上により各基礎自治体におけるエネルギーフローを開発することができた.次に温度情報として過去のアンケート調査等を参考に各産業部門におけるエネルギー消費の内訳を設定することで,熱エクセルギーのフローを開発した. また,②として主に気固反応系の物理モデリングとして一次元のエネルギー・質量・化学種・運動量の保存則を連成させた数値解析モデルを開発し,蓄熱・出熱可能温度域をそれぞれ設定することで,①の基礎自治体単位のエクセルギーフローから熱融通のポテンシャルを算出可能であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,全国のエネルギーフローは総合エネルギー統計により明らかになっていたが,熱融通は全国レベルや都道府県単位で実施できず,より狭い範囲で融通する必要があるため,総合エネルギー統計や都道府県別エネルギー消費統計の情報からでは全国の熱融通のポテンシャルを明らかにすることが困難であった.全国の熱融通ポテンシャルを明らかにしたうえで,向上のために必要な熱融通技術の目標までフィードバックするためには,根底となる基礎自治体単位での熱エクセルギーフローを明らかにすることが重要であった. 今年度はまずそのベースモデルとして総合エネルギー統計や都道府県別エネルギー消費統計,基礎自治体別の各産業部門の従業員数や事業所数,再生可能エネルギーの導入状況などのデータを組み合わせながら基礎自治体単位でのエネルギーおよび熱エクセルギーフローの開発に成功した. さらに熱融通技術の代表として気固反応系を取り扱い,対応可能な温度域を特定することで基礎自治体単位の熱エクセルギーフローから熱融通技術を導入した場合の効率を考慮した熱融通ポテンシャルが算出可能となった.熱融通技術の効率は一次元で熱・物質・化学種・運動量の各保存則を連成した数値解析モデルから算出しているため,技術のパラメータと熱融通ポテンシャルが接続されている.これにより次年度に熱融通技術への具体的なフィードバックを可能とする体制を整えた. これは当初の研究計画通りであり,概ね順調に研究が進行していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
まず,基礎自治体単位のエネルギーフローにおいて,再生可能エネルギーの情報(特に情報が散逸している固定価格買取制度以外のバイオマスに関する情報)をアップデートしたうえで,基礎自治体単位の熱エクセルギーフローの精緻化を目指す.地域内での再生可能エネルギーを地域内で消費するのか,地域外へ送るのかで場合分けしたうえでその熱融通ポテンシャルへの影響を評価する.そのうえで複数の具体的な地域においてエネルギーフローを確認し,その妥当性を確認する.海外でも同様のモデルの作成と熱融通ポテンシャルの算出が可能か検討,方法論の水平展開も検討する. また,②では気固反応系のみならず相変化を用いた潜熱蓄熱などにも技術の対象を広げ,同様に物理モデリングを実施したうえで①に蓄熱・出熱効率という形態で情報を反映,熱融通ポテンシャルを算出する.これにより複数の熱融通技術の役割とそのポテンシャルの違いも明確化することが可能となる. さらに③として,得られた全国での熱融通ポテンシャルを向上させるための技術項目を特定し,改善を図ったときの効果を,数値解析を用いた感度解析により明らかにすることで技術の目標にフィードバックする.基礎自治体同士の広域連携によりどの程度熱融通ポテンシャルが向上するのか,向上する地域はどこなのかを特定することも可能であるため,次年度以降に複数の組み合わせ(小規模な都市雇用圏や二次医療圏など)を試行し,広域連携での熱融通ポテンシャルを算出していく.開発した基礎自治体単位のエネルギーフローは変換することで地域の炭素フローとすることも可能であるため,熱融通による地域の脱炭素の効果も併せて検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体は概ね順調に遂行しているが,エネルギーフローと熱融通技術のモデリングを組み合わせずにそれぞれ独立して実施したため,使用予定であった計算機能およびGPUを搭載したPCが必要な段階ではないと判断し,次年度に使用することとした.
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