研究課題/領域番号 |
22K18132
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
藤原 孝将 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 研究員 (50847150)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | メスバウアー分光 / 核共鳴散乱 / X線集光 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、10μm程度まで集光した放射光メスバウアー光源を使い、2次元走査計測と内部転換電子のエネルギー弁別計測を利用した深さ分解計測を組み合わせた放射光3次元メスバウアー顕微分光測定の開発を行っている。令和4年度中 に、集光光学系および多目的4軸回折計の整備が完了し、当初の目標に近い、20μm程度の集光放射光メスバウアー光源の開発に成功した。この成果は国際試料環境ワークショップにて発表し、高い評価を受け、ポスター賞を受賞した。また、本成果に関する論文投稿を行い、近日中に出版される予定である。今後、上流の高分解能分光器を改良することで、自然鉄においても測定ができるほどの光源強度の向上を目指す。 さらにこの集光ビームを用いて、3次元計測の測定を行った。57Fe試料をレーザーピーニング加工された試料について3次元メスバウアー分光計測を行った結果 、改質相のγ-Fe相の分布を描写することに成功し、表面25nm程度の領域において広い領域で改質相のγ-Fe相が存在し、さらにレーザー照射点付近では100nm以上深くまで改質相が存在していることを明らかにした。現在この放射光3次元メスバウアー顕微分光技術について特許出願するため、所属機関と検討を進めている。 また、レーザーピーニング試料以外の観察対象物を探るため、メスバウアー産業利用会や、鉄鋼協会フォーラム等の国内の研究会を中心にニーズを探っている。 また、高温/低温環境での測定の要求が多いことから、低温でのテスト計測を行い、問題なく内部転換電子の計測が可能であることを確認した。 以上の成果は国際学会1件(うちポスター賞1件)、国内学会・研究会4件の発表に結びついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた集光ミラーの整備や、多軸回折計の整備は予定通り完了し、さらに新型のマルチチャンネルスケーラーを用いた多チャンネルの波高弁別計測も問題なく実施した。さらに内部転換電子検出器も問題なく動作したため、57Feにレーザーピーニング処理を施した試料 の測定は令和4年度中に行うことができており、当初の予定よりも若干早く進行している。特許出願の関係で今年度は論文を投稿することができなかったが、特許出願が完了次第論文投稿を行う。 一方で、深さ分解能を向上させるための内部転換電子のエネルギー分解計測を行うのに必要な波高-時間変換器については、世界的な半導体不足の影響で特定の部品が入手しづらくなっていることから必要な機器の納品に遅れが生じており、開発が遅れる可能性がある。ただし、機器の調達時期を早めたことから、本研究への影響度は小さいと考えられる。 これらのことを総合的に考慮し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは令和5年度以内に放射光3次元メスバウアー 顕微分光装置にかかわる特許の出願を目指し、同時に57Fe試料での3次元顕微分光計測の論文発表を行う。また夏季停止期間を利用し、高分解能分光器を改良することでさらなる放射光メスバウアー光源のフラックスの向上を行い、自然鉄試料においても3次元顕微分光測定を可能にすることを目指す。 令和6年度以降は低温・高温計測用の内部転換電子検出器の開発や、深さ方向を高分解能化するための波高-時間変換器の開発を進める。またレーザーピーニングされた自然鉄試料 での測定に挑戦する。さらに高焦点顕微鏡と組み合わせることで、鉄鋼材の欠陥部や腐食箇所に着目した測定を可能にする。化学相の精密な同定や特殊環境下での測定のために低温・高温あるいは電場印加可能な内部転換電子検出器の開発を行う。 またこれらの成果を定期的に鉄鋼協会などの国内学会やSRIなどの国際学会において発表し、3次元放射光メスバウアー顕微分光の利用の展開を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、高電圧電源の購入予定はなかったが、研究所内の高電圧電源装置が故障したため急遽購入することになった。そのため4連SCAを購入せず、MCSのスレッシュホールドの設定を行うことでSCAの代わりとして使用した。 一方で検出器等の製作が順調に行ったことに加え、世界的な半導体不足による価格高騰や調達遅延が予測されたことから、令和5年度以降購入予定であった深さ分解能を大幅に向上させるための波高-時間変換器として利用する高速データ収集装置(DAQ)の調達時期を令和4年度中に早めることを試みたが、必要な部品の入手が困難になっており、令和4年度中の納品には至らなかった。当該装置は令和5年度に納品される予定である。 また、令和4年度も新型コロナウィルス等の影響でオンライン開催の国際会議・国内会議が多く、また旅費の補助等を受ける機会が多くあったため旅費に充てる研究費が少なかった。
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