研究実績の概要 |
X 線吸収分光法(X-ray Absorption Spectroscopy, XAS)は、物質の電子状態や局所構造を調べるために用いられる手法で、物質に X 線を照射すると、内殻電子が励起されて、発生する蛍光 X 線をシリコンドリフト検出器などで分光することで吸収スペクトルが得られる。そのスペクトルを解析することで、着眼した元素の化学状態や周囲の原子間距離や配位構造などが分かる。XAS は気体や固体や液体など様々な試料形態に適応できる利点がある。また、エネルギーが軟 X 線と硬 X 線の間に位置するテンダー X 線 (2-5 keV) は、生体試料に含まれるリンや硫黄の K 吸収端のエネルギーに相当し、その利用は科学的にも産業的にも重要である。実環境に近い液中の生体膜の電子状態観測の実現には、液中環境下の生体膜と放射光 X 線ビームラインの高真空環境の要件を克服する真空隔離窓付き溶液セルの開発が必要である。本研究では厚さ 150 nm の SiN 薄膜により、大気圧かつ液中環境の試料と真空を仕切る構造の溶液セルを開発した。本年度 BL27SU に敷設されている差動排気システムに本研究で開発した溶液セルを組み込み、真空引きテストおよびテスト測定を行った。液中環境下の生体膜の電子状態観測を実現する環境制御型テンダー X 線吸収分光法を構築することを通じ、電子状態に立脚した液中の生体膜の機能を理解するための計測基盤を創成し応用することを目指している。
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