研究課題/領域番号 |
22K18141
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
林 秀紀 桜美林大学, 芸術文化学群, 准教授 (00783341)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アクティビティ・トイ / リハビリテーション / 認知症予防 / ヘルスケア / 介護福祉 / 病児ケア / デザイン調査 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績は、第18回日本感性工学会春季発表大会において、調査分析の結果報告として発表原稿1件の投稿と口頭発表、および、日本デザイン学会への学術論文1件の投稿(2023.4.21現在査読審査中)である。 【学会発表】第18回日本感性工学会春季発表大会(2023.3)タイトル:「高齢者の健康促進のために活用される玩具の調査分析」 高齢者の心身の機能障害の種類を分類し、回復のために必要となるアクティビティ活動や、その活動に必要とされる玩具とデザイン要素について整理した。 【投稿論文】単著:林秀紀.高齢者の心身の健康促進に活用される玩具デザインの調査分析.デザイン学研究.(2023.3 日本デザイン学会査読審査中)。 本論文では、高齢者アクティビティ開発センターが選定する代表的なアクティビティ・トイ10点を抽出し、8つの評価項目(手の運動、指の運動、足の運動、見る聞く触る感覚、認識する・記憶する、交流、ヒーリング・癒し、所有したい)で、5段階評定尺度法によるアンケート調査を行い、結果を解析した。調査方法は、20歳~83歳42名を対象にし、各評価項目の平均値を主成分分析、重回帰分析により確認した。その結果、評価の平均値は5点満点中、ほぼすべての評価項目が3点以上となり、10点の玩具は高齢者の心身の結構に効果的であるということが示唆された。主成分分析の結果では、アクティビティ・トイは指や手、腕の上肢の運動を使う玩具が多い傾向にあることが分かった。重回帰分析の評価結果では、記憶・認知力の訓練に良い、指を動かす運動に良い玩具が評価されたことが分かった。この調査結果から、アクティビティ・トイの特徴と傾向、さらに所有に対する意向が明示され、子どもが遊ぶ玩具とは異なる、高齢者福祉のための玩具としての可能性の大きさが示された。【その他】2023年度は病児のための玩具調査を主に進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画上のスケジュールでは、2022年度中に高齢者福祉や病児保育のために活用される玩具の調査分析を実施し、その有効性とデザイン要素を明示することであった。そして、2023年度には、その明示されたデザイン評価項目を満たすデザイン試作品を仮説として制作し、玩具の評価まで行うことを予定している。 現在の進捗状況は、2022年度の実績でも述べたが、高齢者向けの代表的なアクティビティ・トイ10点を抽出し、その有効性検証を概ね終えている。この結果、リハビリ効果や認知症予防に対する有効性の確認がとれた他、アクティビティ・トイに必要とされるデザイン的要素を把握した。このように、多変量解析による結果と考察から、新たな玩具設計の指標が明示され、評価基準も明確になった。この段階までは当初の計画通りに進捗している。今後はさらにデザイン指標の精度を向上させるため、ラフ集合を用いた新たな調査を計画中である。 一方、病児保育にむけた玩具については、新型コロナ感染症の影響で、病児へ向けた実査ができなかったが、高齢者向けのアクティビティ・トイと重複している内容もあるため、調査結果を一部共有することが可能であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、前年度までの実績を基礎としたアクティビティ・トイの具体的なデザインについてさらに設計要件を明確にした後、玩具の設計試作を行い、実証評価を予定している。 【①日本デザイン学会第70回研究発表大会(2023年6月)で研究成果発表を予定】 2022年度の研究実績では、アクティビティ・トイ10点の多変量解析から、手や指を使う運動などリハビリ効果に対する有効性と玩具のデザイン的傾向を把握したが、その調査の結果を踏まえ、さらに、感性的な評価項目のみ、追加でラフ集合による分析を行い考察した。各玩具から操作手順や特徴を分類して作成した条件属性と感性的な3つの評価用語である、ヒーリング・癒しによい、コミュニケーション・交流によい、記憶・認知力の訓練によい、を決定属性とした決定表を作成し、ラフ集合を計算した後、決定ルール分析法により計算した結果を分析した。この結果より、上記の3つの評価用語に対し、必要とされるデザイン条件が明示された。 【②アクティビティ・トイの分析、考察結果より明示されたデザイン要件を基に、玩具の試作品を作成し実証評価を予定】 玩具の試作品は、アクティビティ・トイの7つの評価項目を基準に種類ごとに検討し、それまでの分析結果を反映させたデザイン試作品を数点作成する。評価方法は、手や指のリハビリ効果に関しては、表面筋電図を用いて筋肉の活動量を測定し、デザイン試作品との関係性を分析する。感性的な項目の評価に関しては、試作品を用いた訂正調査を計画し、有効性や満足度などの項目について5段階評定尺度法で1次評価し、因子分析等による分析、考察を予定する。①、②の対象は、高齢者と病児とに分かれるが、身体的なリハビリ効果は共通で利用できる部分もある。一方、感性的な評価は、高齢者と病児でどのような差が確認されるかを明らかにしつつ、新たな玩具のデザイン指標を提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究実施計画では2022年度の予算額は¥700,000であったが、¥500,000の前倒し支払い請求を行い、実験用生体計測装置バイオログDL-5000B(エスアンドエムイー社)¥1,199,990を購入し、残金¥10が繰り越された。2023年度は予算額は¥100,010で、研究成果の論文投稿・掲載費、学会出席の交通費等での支出を予定している。
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