研究課題/領域番号 |
22K18167
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池上 康寛 九州大学, 工学研究院, 助教 (10909659)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 脳オルガノイド回路 / 統合失調症 |
研究実績の概要 |
本研究では、患者由来のiPS細胞を用いて統合失調症の臨床的仮説をもとに選出した脳領域のオルガノイド(幹細胞から自発的にできる神経細胞から成る組織体)を作製し、神経細胞から伸びる神経突起(軸索)を介して接続することで統合失調症患者の神経回路を体外で単純化して再現し、その活動メカニズムを細胞・分子レベルで解析することで統合失調症の発症機序を明らかにすることを目的とする。 本年度は、昨年に引き続き患者由来iPS細胞から大脳領域のオルガノイドを作製し、その作製方法の改善に取り組んだ。昨年度までの検討において示唆されていた患者由来iPS細胞を用いて作製した大脳オルガノイドの成熟度の低さを改善すべく、脳の発達段階に大きく影響を及ぼすWntシグナリングの調整を試みた。オルガノイド作製過程初期にWntシグナリング調整薬を添加したところ、統合失調症条件で見られていたオルガノイド直径の増大抑制、および軸索伸長の数・長さの改善が可能であり、患者由来の細胞を用いて脳オルガノイド回路の作製に成功した。遺伝子発現解析を行ったところ、Wntシグナリングの調整薬添加によって下流遺伝子の健常者条件レベルへの変動、増殖性を示す発達段階の神経系細胞マーカーの抑制が確認された。また、脳オルガノイド回路の作製において重要なオルガノイドの領域化に対しても、Wntシグナリングの調整薬添加によって統合失調症の病態に関与する脳前部の神経細胞に発現する遺伝子の高発現誘導を可能にした。一方で、神経活動評価を行ったところ、統合失調症条件では健常者条件との比較において、より低い神経活動頻度を示しており、オルガノイドを構成する細胞組成の差異が示唆された。 以上より、統合失調症患者由来iPS細胞を用いた大脳オルガノイドの作製方法調整により、オルガノイド直径増大の抑制、軸索伸長の改善がなされ、脳オルガノイド回路の作製が可能になった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、統合失調症患者由来iPS細胞を用いた大脳領域のオルガノイド作製方法の改善に取り組んだ。その結果、脳の発達段階に関与するWntシグナリングの調整によって患者由来細胞を用いた脳オルガノイドの直径増大抑制、および軸索伸長の改善を行い、脳オルガノイド回路の作製が可能になった。一方で、研究環境の変化により、統合失調症の病態への関与が示唆されているその他領域(視床など)の脳オルガノイドの作製・特徴評価が十分に行えておらず、最終年度における課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点において、統合失調症患者由来iPS細胞を用いた大脳オルガノイドの作製方法を変更することで軸索を介して接続された脳オルガノイド回路の作製は可能になった。一方で、臨床知見から統合失調症に関連すると考えられている視床領域のオルガノイドの作製・特徴評価は十分に行えていない。そのため、最終年度は既報の作製方法を参考に視床オルガノイドの作製を行った後、大脳オルガノイドと視床オルガノイドから成るオルガノイド回路を構築し、大脳-視床間の相互作用を評価する。また、昨年度より研究環境が変化したことに伴い、多電極アレイを用いて行っていた神経活動評価をイメージングベースの手法にシフトさせ、オルガノイド内部の細胞空間配置を考慮しながら脳オルガノイド回路内の接続特性を評価していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度、研究機関の異動に際し物品購入を行い、その残額72円を来年度に繰り越し、細胞培養や機能評価のために日常的に使用する試薬購入のために役立てる。
|