研究課題/領域番号 |
22K18180
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
阿部 結奈 東京都立大学, システムデザイン研究科, 助教 (80881953)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 生体計測 / 生体医工学 / 皮膚科学 |
研究実績の概要 |
皮膚は生体の最外層を保護する重要な器官であり,様々な組織が多層構造の中に複雑に組み込まれている.最も外側に位置する表皮組織は,外部からの異物の侵入や内部からの過剰な水分蒸発を防ぐ「バリア機能」を担うとともに,外環境をセンシングして生体機能を調整するインテリジェントな面が明らかになりつつある.本研究では,表皮組織の中のイオン分布を反映するとされる電位差「表皮電位」に基づき,表皮組織健全性の評価と,機能不全の回復促進に対する電気的なアプローチを実現するデバイス開発をめざしてきた. 当該年度は表皮用センサを開発した.まず,多孔質樹脂材料により,皮膚内への低侵襲アクセスを実現する微小な針「マイクロニードル」(長さ・直径等が1 mm以下程度の針のアレイ)を作成し,前年度までに確立した薄膜コーティングによって,針先でのピンポイント計測を実現するための絶縁パターニングを施した.ニードル表面にセンサ電極材料をコーティングすることで,組織中のナトリウムイオンを定量評価する表皮内センサを実現した.また,長時間にわたる表皮電位計測では,皮膚表面が計測用のゲル塩橋に含まれる電解液によって過剰に水和するという問題が発生する.これを解決するため,ゲル塩橋の材料を比較検討し,適度な水分保持能を持つ合成高分子ゲルを探索した.これらの成果を応用して,表皮電位計測および皮膚電気刺激のためのウェアラブルデバイスを構成することが期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は,電気化学的計測系の開発を進め,表皮内に刺入するマイクロニードル基板のイオンセンサと,表皮表面に貼り付けるゲル塩橋を用いて,それぞれ組織内のナトリウムイオンと,組織の厚み方向に生じる表皮電位の計測にに成功した.表皮組織内にはイオン濃度分布が作られ,カルシウムイオン等が細胞増殖や分化のシグナルとなることが知られており,またその濃度分布が表皮電位を作ると考えられている.したがって,これら皮膚の生理的な機能評価につながる指標を計測できたことから,皮膚計測デバイスの開発はおおむね順調に進展してきたと考えられる.なお,関連成果について学術論文1報を発表済である.
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今後の研究の推進方策 |
皮膚へ外部から電気的刺激を印加することで,細胞の増殖や分化を促し,創傷やバリア機能不全の治癒につながるとする先行研究がある.しかし,効果的な刺激の条件やその効果については一見互いに矛盾するような報告もあり,関連研究を俯瞰した再検討が求められる.in vitro皮膚モデル等を用いて,電気刺激の機能メカニズムを調査し,最適な刺激条件の探索を行う.これまでに確立した計測系を用い,実際の皮膚損傷を模擬したサンプルのモニタリングや治療実験等を進め,その有用性を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展に伴い,従来の実験系では長時間の電位計測が難しいことが判明したため,当初の研究計画を修正するとともに,関連物品の購入相当額を次年度に繰越した.次年度に修正案に基づいて執行する予定である.
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