刺激応答性ハイドロゲルは多くの点で生体組織との類似性をもつことから、バイオマテリアルとして盛んに研究されている。しかしながら従来の刺激応答性ハイドロゲルおよびその機能のほとんどは平衡論的な機能設計にとどまっており、生体高分子を燃料として非平衡機能を示すハイドロゲルの例はない。本研究では栄養摂取、代謝、そして老廃物排泄により維持される生体から着想を得て、標的生体高分子を燃料として、非平衡かつ巨視的な構造・物性変化を示すハイドロゲル材料を実証し、その設計原理を明らかにすることを研究目的とした。具体的には燃料としてカチオン性のポリペプチド(ポリリシン)を燃料モデルとして用い、アクリルアミドを母体とした高分子ハイドロゲルに対してアニオン性モノマー(アクリル酸)およびタンパク質分解酵素(アクリル化トリプシン)を導入することで燃料親和性および燃料分解性を有するハイドロゲルを作製した。本ハイドロゲルは燃料であるポリリシンの添加により一時的な体積収縮と自律的な初期状態への回復、すなわち過渡的な体積変動を生じることが明らかとなった。加えて本ハイドロゲルの過渡的な体積変動によってゲル内に担持した蛍光物質を放出できることもわかった。ハイドロゲル母体を生体適合性の高いN-(2-Hydroxypropyl)methacrylamideへ、燃料分子をカチオン性酵素であるリゾチームへ変更した際にも同様に燃料駆動の体積変動を観察した。以上のことから本研究で明らかにした材料設計指針の汎用性を示した。最後に、センチメートルスケールからナノメートルスケールへとサイズダウンしたハイドロゲルナノ粒子において、応答速度の著しい向上を観察した。生体高分子に応答したハイドロゲルの非平衡機能を実現する本研究課題は、生命現象を制御する『生き物のようにダイナミックにはたらく刺激応答性ハイドロゲル』開発にむけた可能性をもつ。
|