研究課題
前年度までに実証したナノ粒子と抗体の相互作用、ATP応答性の精度について深く検討を行なった。蛍光分光相関法(FCS)を用いて応答性について評価した。ATPが腫瘍環境レベル1 mMで即時的に放出できることに加えて、血中グルコースレベルでは抗体を安定に保持していることを明らかとした。ここでGTPでは1 mMで同様に抗体の放出が促進されたため、ATPの選択性はそこまで高くないものの、腫瘍環境がATP豊富な環境であることを考慮すると高い選択性を実現できることを示している。これに加えて、cAMPでは1 mMでも放出が促進されないことから、電荷量も重要であることを示唆している。また、作製したナノ粒子の組織浸透性について、がんスフェロイドを用いて検討した結果、深部への送達が確認され、マウス固体実験でもより効率的な送達を実現できると考えている。次に担腫瘍マウスにおけるホウ素と抗体の腫瘍組織への集積についてICP発光分析とイメージングシステムを利用して、定量化した結果、フリーの抗体と比較しても高い集積性を実現した。すなわち、本システムがホウ素と抗体の高い集積性において重要であることを示すことができたものと考えている。ここで担腫瘍マウスにおける治療性能について、抗体を含まない系において、中性子線照射を行うことで臨床薬であるL-BPAを凌駕する治療性能を実現した。これらの検討と並行して、多糖の骨格の異なるナノ粒子について作製を試みており、細胞レベルで高い治療性能を実現している。
2: おおむね順調に進展している
目的を実現するのに必要となるATP応答能およびその選択性について深く検討を進めることができた。その結果、ATPとGTPの間で高い選択性を示すことはできなかった。しかし、cAMPやグルコースでは放出が促進されなかったことに加えて、腫瘍環境に豊富に存在しているアドバンテージを活かして、ATPの応答性を実現できるものと考えている。また、今回作製したナノ粒子と抗体の複合体は腫瘍組織へと効率的に集積し、投与24時間後に集積の極大を迎えることを明らかとした。この際に抗体の集積量は単独投与の系と比較して、極めて高い集積を実現しており、本研究の狙いであるホウ素と抗体の効率的な共送達を実現した。これに加えて、免疫チェックポイント阻害剤を含まないナノ粒子は臨床薬であるL-BPA・フルクトース錯体の治療性能を凌駕する結果を得ており、今後、複合体の治療性能を比較することで転移がん治療へと繋げることが可能となると考えている。これらの検討と並行して進めた多糖骨格の異なるナノ粒子の創製についても良好な成果を得つつあるため、順調に進展しているものと考えている。
今後は本システムを用いたBNCTと免疫チェックポイント阻害剤の利用によるアブスコパル効果誘導における有用性を実証する。そのため、2次元培養系において、中性子線照射がダメージ関連分子パターンの放出に与える影響や抗原放出量について、ELISAを用いて、経時的な変化を定量する。ナノ粒子/免疫チェックポイント阻害剤複合体を用いた転移がん治療性能について評価を行う。その際に腫瘍体積の変化に加えて、体重変化を定量する。これら治療過程でのダメージ関連分子パターンの放出や抗原の放出について、血清を回収し、ELISAにより定量を行う。またCD8+ cellの活性化について、IFN-γ、B細胞の活性化についてそれぞれTNF-αの定量をELISAによって、行う。最後に、これらの活性化についてフローサイトメトリーにより定量評価を行う。
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