研究課題/領域番号 |
22K18201
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
李 誠鎬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20850001)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生体材料 / リン酸塩ガラス / 液相法 / 第5族元素 / 無機イオン |
研究実績の概要 |
液相法によるリン酸塩インバートガラスの作製プロセスを確立するため、溶融法で作製したリン酸塩インバートガラスにおいて、ニオブと類似した特性を示したチタンを原料とし材料作製を行った。作製したガラスはリン酸塩の含有量が30mol%程度であり、インバート組成領域のガラスであり、ラマンや31P MAS-NMRより解析したリン酸塩グループの構造はオルトリン酸塩とピロリン酸塩より構成されていた。ラマンスペクトルからは、P-0-Ti結合に帰属するピーク強度が、チタン含有量の増加に伴い大きくなった。31P MAS-NMRの結果からは、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩に帰属する領域に加え、メタリン酸塩に帰属する領域までピークが広がっていた。しかし、ラマンスペクトルからはメタリン酸塩構造に帰属するバンドが存在しないことから、導入したチタンはその量が増加するに伴い、ピロリン酸塩ユニット同士を架橋することで、「(-O-P-O-Ti-O-P-O-)n」鎖状構造が形成されていることを明らかにした。この構造は、溶融法リン酸塩インバートガラスには見られない特異的な構造であった。無機イオンの溶出挙動は、チタン含有量の増加に伴い減少したことから、チタンが短いリン塩ユニットを架橋し、化学耐久性を向上したと考えられる。 5族元素であるニオブは、塩化ニオブ水溶液を原料に、チタン含有リン酸塩インバートガラスを作製する際に確立したプロセスにて、液相法ニオブ含有リン酸塩インバートガラスを作製した。ニオブ含有ガラスもチタン同様、リン酸塩の含有量が30mol%程度であり、インバート組成であった。一方、リン酸塩ユニットとの反応性が強く、チタンより少ない仕込み量でも多くのニオブをガラス網目構造に導入可能であった。ラマンスペクトルからも、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩に帰属するピークが見られ、チタン同様のチェーン構造の形成が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶融法リン酸塩インバートガラスで第5族元素のニオブと特性が類似したチタンを原料に活用し、多くの条件を検討することにより、液相法によるリン酸塩インバートガラス作製プロセスを確立した。その構造解析により、溶融法で作製したガラスには見られない特異的な構造を持つことを明らかにしている。塩化ニオブを原料に液相法リン酸塩インバートガラスの作製にも成功しており、作製したガラスがアモルファスであり、ラマンスペクトルからも短いリン酸塩ユニットより構成されることを明らかにしている。すなわち、ニオブ含有リン酸塩インバートガラスの作製プロセスは確立されたと考えている。タンタル含有リン酸塩インバートガラスの作製については、高濃度の塩化タンタル水溶液を作製することが難しく、アルコール等を用いた新たなプロセスの確立に向けて検討を進めている。加えて、当初計画にはなかったが、細胞機能を活性化するにおいて有効なマグネシウムを添加した液相法ガラスも作製している。マグネシウム含有ガラスも、インバート組成の範囲内であり、ラマンスペクトルより短いリン酸塩ユニットにて構成されることを明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
ニオブ含有リン酸塩インバートガラスの作製プロセスが確立したことから、31P MAS-NMRを用いた詳細なリン酸塩ユニットの構造解析、無機イオン溶出挙動の解明などを行い、細胞実験を通じたニオブイオンによる細胞活性化機能を評価する。 タンタル含有リン酸塩インバートガラスについては、引き続き作製条件を検討することにより、液相法による作製プロセスの確立を目指す。作製したガラスは、31P MAS-NMR、ラマンスペクトルによるガラス網目構造解析、無機イオン溶出挙動解明、細胞を用いた評価、抗菌性評価を行う。 本来計画になかったマグネシウム含有リン酸塩インバートガラスについては、部分結晶化した組成があるため、作製プロセスの微調整を行う。作製プロセスが確立したのち、31P MAS-NMR、ラマンスペクトルによるガラス網目構造解析、無機イオン溶出挙動解明、細胞を用いた評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は所内の配置換えにより1年間産総研つくばセンター勤務となったため、円滑の研究活動が難しく、細胞実験を行うことができなかった。そのため、細胞実験の消耗品代として約40万円の次年度使用額が生じている。2023年度より本来の勤務地へ帰任したため、第5族元素含有液相法リン酸塩インバートガラスの作製プロセス確立および無機イオン溶出挙動解明に加え、細胞実験を実施していく予定であり、次年度使用額は細胞実験の消耗品代としての使用を計画している。
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