本研究は従来の生体活性ガラス作製手法である溶融法ではなく、リン酸源とカチオンを混合する簡便な液相法プロセスの確立を目指している。加えて、液相法により作製したガラスの構造を詳細に解析することで、生体用リン酸塩ガラスの機能設計指針確立を目標としている。その中でも、第5族元素のニオブ(Nb)、タンタル(Ta)を導入するプロセスの確立と構造解析、生体用ガラスとしての特性評価を中心に行った。Nb導入プロセスは塩化ニオブ水溶液を原料とし、インバート組成のリン酸塩ガラスを液相法より作製することに成功した。ガラスの溶出挙動は、Nb仕込み量の増加に伴い減少する傾向を示し、リン酸塩ユニットをNbが架橋した構造を形成したと考えられる。一方、Taは水との反応性が高く、塩化タンタルを水に溶解させると瞬時に沈殿を形成するため、水溶液ベースでの合成は出来なかった。そこで、塩化タンタルがエタノールに可溶である点に注目し、ピロリン酸塩水溶液に塩化カルシウム水溶液と塩化タンタル/エタノール溶液を同時滴下するプロセスを確立した。Ta仕込み量が少ないサンプルは、Taがガラス網目構造に導入されていたが、Ta仕込み量が多いサンプルは酸化タンタルの微粒子またはアモルファスが形成されることを明らかにした。Ta仕込み量の増加に伴いイオン溶出量は減少しており、Ta導入によりガラスの化学耐久性が向上することを明らかにした。作製したTa含有ガラスの粉末からイオン抽出培地を作製し細胞培養実験を行ったところ、細胞毒性はなかったが細胞接着や増殖への影響はなく、Ta未含有と差を示さなかった。当初計画になかった、マグネシウム(Mg)含有リン酸塩ガラスを作製し細胞培養実験を行ったところ、Mg含有リン酸塩ガラスにおいて細胞増殖性が高い傾向を示していた。加えて、RT-PCRによる評価から骨芽細胞の分化に関連する遺伝子発現が優位に高くなっていた。
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