研究課題/領域番号 |
22K18237
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研究機関 | 静岡県立静岡がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
青山 高 静岡県立静岡がんセンター(研究所), その他部局等, 研究員 (80836081)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 同種造血幹細胞移植 / 栄養パス / BIA / 栄養関連有害事象 / PN(薬価) / 基礎代謝 / 移植片対宿主病 / 転帰 |
研究実績の概要 |
同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT) に用いる栄養パスの有用性は静岡がんセンター (当センター) 開院 (2002年) 当初より探索している.本研究の目的は,allo-HSCTに用いる栄養パスの有用性を多様な視点より評価することである.本年度は,過去症例を用いて患者背景(標準的な体格指数: BMI)と治療内容 (移植ソース,前処置法)ならびに介入期間の整合性を合わせるための先行研究を論文化し,発表した. 主目的: allo-HSCTに用いる栄養パスにおける食事支持による費用対効果の評価について,本年度は,課題に対する先行研究として2012年から2016年までにallo-HSCT (移植日: day0) を受け栄養パスを適用した標準的なBMIの症例を対象とし,前処置前日から経静脈栄養 (PN) 終了翌日までを評価した.全36例 (中央値: 60才,女性16例) の経口摂取熱量と栄養関連有害事象(嘔吐等) ならびに医療資源 (PNの薬価) に関連が認められていた.現在,この先行研究で得られた介入期間の中央値 (前処置からday42) をベースに過去症例を用いて移植ソース別の費用対効果を検討している. 副次目的: ①食事誘導性熱産生 (DIT) やPNからの蛋白質投与量とPS の改善が体重減少に関与している可能性の探索は未達であるが,現在,過去症例を用いて,体重減少についてDIT,PSも含めた各種推定必要エネルギー算定法による充足率の比較検討をしている.②転帰と骨格筋量 (四肢骨格筋量: SMI含む) より栄養介入に必要なカットオフ値の探索については,時限的に過去症例の2008年から2015年までの113例の5年生存を検討し,allo-SCT前処置前の低BMI(<18.5)が予測因子として挙げられた.治療前のサルコペニアの診断の一因を示すSMIおよび 栄養状態を示すGNRI(栄養リスク有り:<98) にも関与が認められていた. ③PSが影響している体重減少を予見できる可能性のある安静時エネルギー消費量 (REE) の検討は介入を要するため,前向き臨床研究の準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題について,本年度報告した先行研究において明らかとなっていない点 (一定期間内に治療の層別化されていない費用対効果の報告1),生存期間 (1年,3年) と栄養パス適用の期間内の体重減少や前処置前の標準的なBMIなどの臨床指標の関連が不足していた報告2,3),PSの影響を受けている可能性のある体重減少と臨床指標との関連が明らかになっていない報告4))によって課題である栄養パスの有用性の焦点をより明確にした.2022年に当センター血液・幹細胞移植科においてallo-HSCTを受け,前処置前のBMIが標準的であり,day42まで栄養介入できた対象症例は18例であった.今後,症例数を増やして前処置別の費用対効果の検討を予定している.標準的なBMIを合わせた1年と3年ならびに体重減少と転帰との関連性は過去症例を用いて検討する.また,体重減少率に影響をおよぼす臨床指標に関しては前向き研究の準備を進めている.
1)青山 他: 日本栄養士会雑誌,63(1):27-34,2023. 2)Aoyama,et al: Nutrition and Metabolic Insights,15,2022. 3)青山: 学会誌JSPEN, 4(2):52-62, 2022. 4)Aoyama, et al: Plos One, e0271728,2022.
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今後の研究の推進方策 |
主目的: allo-HSCTに用いる栄養パスにおける治療内容 (移植ソース,前処置法) の費用対効果の探索のうち,移植ソースにおける検討では,過去症例 (2015年から2019年までに骨髄破滅的前処置法: MACを受けた標準的BMIの患者40例) において一定期間中のPNの薬価と経口摂取熱量に相関を認め,かつ移植ソース別 (非血縁間22,臍帯血8,血縁者間10) のPNの薬価の分散は等しかったことから,現在,論文化を進めている.この先行研究を踏まえ前処置法別 (骨髄破滅的前処置法: MACと骨髄非破滅的前処置法: RIC) における費用対効果の検討では,2022年度においてMACが14例,RICが4例登録されており,RICが5症例以上取得されたら,解析を進めていく予定である. 副次目的: ①DITやPNからの蛋白質投与量とPSの改善が体重減少抑止に寄与している可能性に関する探索は,2015年から2019年までの先行研究において,体重減少の関連因子としてDITを示唆する経口摂取開始日とPS,栄養関連有害事象および総供給エネルギー量を現体重を用いた各推定必要エネルギー算定式で除したエネルギー充足率との関連を検討している.PNからの蛋白質投与量については,本研究期間中の症例においてREEとの関連性の前向き研究において探索する予定である.②転帰と骨格筋量 (四肢骨格筋量: SMI含む) より栄養介入に必要なカットオフ値に関する探索については,科研費の研究期間内では5年生存を遡りデータ取得し解析する期間が時限的に難しいため過去症例を用いて検討した.その結果,5年生存と前処置前のBMIとSMIおよびGNRIに関連が認められた.今後は,1年と3年の生存と臨床指標の関連性ならびに栄養パス適用期間中の体重減少との関連性を検討する.③PSに影響している可能性のある体重減少とREEの関連を探索するために間接熱量計を用いて①の各推定エネルギー算定式に基ずくエネルギー充足率とともに検討していきたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
allo-HSCTにおける体重減少の臨床指標 (食事誘導性熱産生,投与栄養量と方法,PS) の探索には安静時エネルギー消費量 (REE) と体組成 (BIA) の機器を要する.これらの機器は,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針の介入の定義にある「研究目的で,人の健康に関する様々な事象に影響を与える要因(健康の保持増進につながる行動及び医療における傷病の予防,診断又は治療のための投薬,検査等を含む.) の有無又は程度を制御する行為」の「検査」に該当するため,静岡がんセンター倫理委員会の審査を受けるための準備をしている.
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