研究課題/領域番号 |
22K18241
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
小出 卓哉 大阪電気通信大学, 医療健康科学部, 特任講師 (00882557)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 立ち上がり動作 / 大腿直筋 / 平行リンク機構 / 体幹重心 |
研究実績の概要 |
本研究はヒトの立ち上がり動作時の筋活動によって生じる下肢大腿部の二関節筋の機構特性を明らかにする事を試みた.体幹を鉛直上に規制しない立ち上がり動作,すなわち,通常の立ち上がり動作における動作筋電図学的解析により主働筋を明らかにし,下肢の筋配列を基準にしたリンクモデルによる理論的解析,さらに,その機能を再現した実機モデルによる理論的解析を行った. 動作筋電図学的解析によって,この動作の主働筋が膝関節の一関節伸筋と大腿部前面の二関節筋である大腿直筋の2筋である事が明らかになった.また,モデルによる理論解析により,立ち上がり動作時の体幹を支えるための筋収縮力に膝関節の一関節伸筋は大きく貢献するが,大腿部前面の二関節筋である大腿直筋は関与しない事が明らかになった. そこで,重心方向に床反力を向ける二関節筋の機能である平行リンク機能に着目し,大腿直筋を平行リンクとしたモデルを試作し,立ち上がり動作時の床反力の変化と立ち上がり動作の姿勢変化を計測した.その結果,大腿直筋に相当するワイヤが慣性力によって倒れる体幹を引き止め,さらに,平行リンク化する事により,足関節に発生する床反力を常に重心方向へ調整している事がわかった. 従来から定義されているヒトの立ち上がり動作の主働筋,すなわち,膝関節の一関節伸筋と股関節の一関節伸展筋による伸展トルクではなく,膝関節の一関節伸筋による膝関節の伸展トルクと,倒れようとする体幹の慣性力を平行リンクとなった大腿直筋が保持している機能により,股関節の伸展トルクが発生したように見える作用となる事が明らかになった. このため,従来から述べられている股関節の一関節伸筋の作用がなくても立ち上がり動作が可能であると事が明らかになった.これより,大腿直筋の平行リンク機能は膝関節の一関節伸筋のみの駆動力で,立ち上がり動作を可能にする機構特性を有している事が提示できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では立ち上がり動作時の大腿部前面の二関節筋である大腿直筋の筋活動を明らかにするため,立ち上がり動作中の動作筋電図学的解析を行う.本研究の二つ目的に対して実験1(下肢に疾患歴がない健常男子大学生)と実験2(65歳以上の方)を設定し,研究を進める. 2022年度は実験1の下肢に疾患歴がない健常男子大学生の立ち上がり動作中の大腿部二関節筋である大腿直筋の筋活動の解明を目的とした実験を実施した.研究内容は以下の通りである. 研究対象者は下肢に疾患歴がない健常男子大学生15名を対象とする.計測項目は立ち上がり動作中の姿勢変化,筋活動,床反力,体幹加速度とする.立ち上がり動作中の姿勢変化はスマートフォン内蔵カメラと電気ゴニオメータを用いて計測する.筋活動はEMG計測システムを用い,床反力の変化はフォースプレートを用いて計測する. 速度条件は立ち上がり時に60bpmのメトロノームを再生し,1拍(立ち上がり時間1秒),2拍(立ち上がり時間2秒),4拍(立ち上がり時間4秒)の3条件の立ち上がり動作を行う.実験実施前に数回の練習を実施してもらい規定の時間で立ち上がりが可能になったタイミングで実験を実施する. 以上の実験結果の動作筋電図学的解析により,従来から述べられている股関節の一関節伸筋の作用がなくても立ち上がり動作が可能であると事が明らかになった.これより,大腿直筋の平行リンク機能は膝関節の一関節伸筋のみの駆動力で,立ち上がり動作を可能にする機構特性を有している事が提示できた.
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの立ち上がり動作を明らかにするために重要となるのが健常者と高齢者の立ち上がり動作の違いを明らかにすることである.この立ち上がり動作の違いを明らかにするために高齢者の動作筋電図学的解析をおこなう必要がある.高齢者施設の理学療法士と連携を図り,円滑に実験がおこなえる環境を整えることを目標とする.その後,高齢者の立ち上がり動作における動作筋電図学的解析をおこなう.現在,予定している実験は以下の内容である. 高齢者の立ち上がり時の主働筋の解明を目的とした実験を実施する.研究対象者は介護老人保健施設を利用する高齢者15名を対象とする.研究対象者の安全を最優先とし,本人,家族,介護老人保健施設に常駐している医師,または,研究対象者に係る医療従事者が中止と判断した場合は即時中止とする.また,実験開始前の実験説明,および実験参加についての同意確認時に,介護老人保健施設の常駐している医師,または,研究対象者に係る医療従事者により体調についての問診を行なっていただくこととする. 計測項目は立ち上がり動作中の姿勢変化,筋活動,床反力,体幹加速度とする.立ち上がり動作中の姿勢変化はスマートフォン内蔵カメラと電気ゴニオメータをもちいて計測する.筋活動はE M G 計測システムを用い,床反力の変化はフォースプレートを用いて計測する. 実験条件は自立した立ち上がりが可能である場合は介助なしでの立ち上がり1条件(介助なし条件),介助者ありでの立ち上がりにおいて介助位置を変えた2条件(介助位置条件)の計3条件とする.各条件において3試行実施するため,研究対象者には3条件×3試行で9回の立ち上がり動作を実施してもらう.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により,対面での実験が予想以上に実施できなかったため,論文を執筆するための被験者数が確保できなかった.次年度使用額については2023年度の論文発表のために使用予定である.
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