研究課題/領域番号 |
22K18245
|
研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
土居 二人 長崎総合科学大学, 工学部, 講師 (90780346)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 / 在宅人工呼吸器療法 / 在宅酸素濃縮装置 / 酸素供給 / 液体酸素 |
研究実績の概要 |
本研究は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する、在宅人工呼吸療法(HMV)と在宅酸素濃縮器装置(HOT)の導入を行う上で、HMVと併用が可能で、リークや換気量に影響を受けずに吸入気酸素分画(FiO2)を維持できる酸素供給方法を開発することを目的とする。 本年度は、2022年度の追加研究としてCOPD患者を模倣した人工肺とHMVを接続した閉鎖回路を用いた基礎実験に基づき、酸素濃縮装置の代わりに液体酸素を併用したFiO2値計測の実験を行った。液体酸素は、酸素濃縮装置に比べ高いFiO2値を示すことが判明したが、HMVの機種に応じてFiO2値にバラツキが見られた。この原因はHMVの機械的な問題であり、上位機種ではリークによるFiO2値は影響を受けにくく、在宅で使用される一般のHMVではFiO2値が低くなることも明らかとなった。 新規酸素濃縮装置の開発には、リークの影響を受けない機械的構造が必要であり液体酸素を駆動源とする閉鎖的なFiO2供給システムの仕組み作りを検討している。液体酸素の長所として電源を必要としないことであり、災害時における緊急時でも稼働できることが期待される。ただし、一定日数で自然気化してしまうため使用日数には期限が設けられてきてしまう。これらの特性を含め臨床に導入できる新規酸素濃縮装置の供給開発方法について検討していきたいところです。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、COPD患者を模倣した人工肺とHMVを接続した閉鎖回路を用いて基礎実験を行いました。液体酸素の有用性を検証するため、3機種の人工呼吸器に接続し、計測を行ったところ、機種によるFiO2の違いが見られました。2022年には最新式の人工呼吸器として、カフベンテック社製のVOCSNが発表されました。追加研究として、VOCSNもリークに関するFiO2の計測に加えました。最新式の人工呼吸器であったが、2022年に検証実験を行った酸素濃縮装置ほどのFiO2には至らなかったものの、酸素濃縮装置を搭載した人工呼吸器としてコンパクトで使用しやすい機能であることが実感できました。一方、液体酸素を用いたFiO2実験では、どのリークでもFiO2が高値を示し、これらの結果はジャーナルにも3本投稿し掲載されました。 また、2023年度の後半にHMVへの酸素供給方法が2点あることが判明し、急遽追加実験を行いました。マスクのポートとHMV背面の酸素供給ポートから液体酸素を供給し計測を行ったところ、とても興味深い結果が得られました。まず、HMV背面から酸素を供給しても高いFiO2値を得ることはできず、NPPVのポートから酸素供給を行った方が高いFiO2値が計測されました。人工的に作成されたリークポートからのリーク0L/minからリーク10/minまで、すべての機種において同様の結果となりました。 これまで行った先行研究でも指摘した通り、HMVの内部機構の空気弁、酸素弁の機能を最大限に生かすためにも、外部から供給するO2の圧力を高める装置を開発することが抜本的な解決策になると予想されるため、次年度の研究に注力していきたいと考えています。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、FiO2の低下に対して液体酸素の送気弁を調節し酸素流量を増加させるフィードバック機構の開発に進みます。このフィードバック機構を液体酸素ヘリオスに実装し、リークが発生した場合でもFiO2値を充分に維持できる機能を持たせる必要があります。在宅人工呼吸器の普及に伴い、院外での呼吸器治療やAIを用いた遠隔診療も徐々に浸透してきていますが、いまだ在宅酸素療法における課題は解決に至っておりません。在宅の酸素療法は、酸素濃縮装置、酸素ボンベ、液体酸素の3種類が主流ですが、それぞれに長所と欠点があり、臨床現場の視点からもゴールドスタンダードを決められないのが現状です。 呼吸器内科医と連携し、流体力学の専門家、電気工学の制御システム開発者、電子部品の専門家チームを発足させます。厳しい条件下での計測も必要となるため、今年度は大幅な実験施設の改良を行う予定です。併せて、大型のエアコンと除湿器を設置して、温度と湿度の変化に対応できるようにします。また、電子部品の一部製造と改良を行うため、電気実験工作室の手配も進めています。1年間で収集したデータと今年度実施するデータの比較と検証を行い、臨床現場に適した液体酸素濃縮装置の開発と創出を目指します。
|
次年度使用額が生じた理由 |
職場の異動に伴い、研究室環境の整備に時間がかかり研究補助員となる人件費が計上できなくなり少額の繰越金が生じました。 次年度は酸素濃縮器の開発と評価試験にて使用する予定です。
|