研究課題/領域番号 |
22K18250
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
針山 孝彦 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特命研究教授 (30165039)
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研究分担者 |
高久 康春 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特任研究員 (60378700)
妹尾 千代 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特任研究員 (60890960)
河崎 秀陽 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 准教授 (90397381)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2027-03-31
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キーワード | 文化財保護 / NanoSuit法 / 自立薄膜 / 防菌防黴 / プラズマ |
研究実績の概要 |
人類にとって貴重な文化財の保存と修復に関して、日本だけでなく世界的に研究が進められている。われわれは、ガスや水分などのバリア機能と、導電性機能をもつ薄膜を、基材表面に沿って密着させて形成させたり、自立薄膜として単離し基材表面に付与したりすることもできるNanoSuit薄膜技術を改良し、新しい文化財保護法の確立を目指す。 これまでの研究開発によるNanoSuit法による成膜技術の特徴として、1.凸凹した試料や基材表面に添った薄膜作成可能、2.水分やガスのバリア機能付与、3.自立膜作製可能、4.滅菌性や導電性が高いなどの特徴のある薬品を用いることも可能、5.膜厚コントロール可能、6.薄膜の厚さや薬品の屈折率をコントロールすることで、透明にしたり、光学干渉により色を付けたり、などの膜の光学的特性調整可能、7.膜に導電性を持たせることができるので、静電気による塵の誘引などから基材を防御可能、8.NanoSuit法を作成する際に用いるプラズマあるいは電子線照射によって溶液を成膜する際に基材表面に付着した菌や黴などを死滅させ、成膜したNanoSuit膜は菌や黴を内部に通すことがない、などが挙げられる。 これらの特徴を最大限利用できるように1.文化財として発掘されるタマムシなどの昆虫の保存・修復技術の確立。2.紙などで作られた文化財をカビなどによる変色から表面を保護する技術の確立のために、それぞれの基質の特徴を解析するとともに、それぞれの基質にNanoSuit薄膜技術を適用できる工夫に努め、新規な文化財保護技術開発としてのNanoSuit技術を最適化することを目的として研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.昆虫の保存・修復技術の確立のため、色の起源が構造色であるヤマトタマムシの鞘翅を用い、昆虫の翅の色の起源として、層状構造を構成している層がメラニンであるか否かの確認実験を実施した。タマムシの鞘翅の下半分を過酸化水素水に浸けると、脱色される。構造色である鞘翅は、脱色前は、緑色部の570 nmおよび赤色よりも長波長部の700, 800, 900 nm付近にピークをもつ多層膜反射スペクトルを示すが、脱色後は反射率が大きく下がり、450 nm付近の短波長側から長波長側に向けて反射率が高くなるスペクトル反射を示し、反射率の高い900 nm付近でも、多層膜構造の反射率の1割程度に落ち込むことがわかった。 この鞘翅を超薄切片にして透過型電子顕微鏡で観察すると、メラニンが含まれていたであろう透過電子顕微鏡像で黒く(電子密度が高く)見えている層が抜けていることが確認できた。色素保存用グリセリンから出すか直接空気中に保存すると構造色は消え黒化する現象と、今後比較することで、メラニンの役割を確認する。 2.紙に対するNanoSuit薄膜の役割を検証するために、段ボール、蛍光インクで描いた紙、色紙を用いて、a.NanoSuit薄膜処理(NanoSuit溶液を塗布後、大気圧プラズマ照射処理)、b.大気圧プラズマ処理のみ、c.NanoSuit溶液塗布のみ、d.無処理、の4群を準備し、太陽光または紫外線照射の下で色の変化を観察した。これまでの結果では、段ボール、蛍光インクで描いた紙では大きな変化は観察されなかったが、色紙では、色の種類によって退色の比率が変わることが示され、NanoSuit薄膜の有効性が期待される。現在、その確認実験を遂行中であり、紙の文化財保護に色彩の保護でも貢献できる可能性が新たに見えてきた。
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今後の研究の推進方策 |
1.2022年度確認できたメラニンの含有の違いによる色の変化をもとに、文化財として発掘されるタマムシの黒化現象の解明を実施する。そのために、発掘されたタマムシの構造観察および反射スペクトル測定を実施する。 2.2022年度の折り紙の色の変化を継続測定・解析し、染料(塗料)とNanoSuit大気圧プラズマ照射処理をしたものの違いを明瞭にする。 紙などで作られた文化財をカビなどによる変色から表面を保護する技術の確立のために、それぞれの基質の特徴を解析する。特に、NanoSuit溶液処理、NanoSuit大気圧プラズマ照射処理をしたものの接触角測定をし、紙としてのテクスチャの違いを明らかにする。また、筆を用いた質感の変化をとらえる。 また、カビと紙との関係の実験を開始するためのカビの選定実験を実施し、新たな紙へのカビの付着実験を開始する。 2022年度、研究遂行上の参考のために「・・・文化財を実際に扱う現場で活動している研究者(国内・国外と)緊密に連携する・・・」とコメントをいただいていたので、イタリア・フィレンツェ大学の文化財保護を推進している理学部細菌学教室にてセミナーを実施し、今後の連携を検討した。その連携を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスにより、数多くの移動制限があったため、次年度使用が生じた。次年度使用とした経費は、実験室内での効率的研究に用いるとともに、海外との連携強化にも用いていく。
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