研究課題
佐伯は、コンパクト多様体上の可微分関数が与えられたとき、そのReeb空間が有限グラフの構造を持つための必要十分条件を、レベル集合の各連結成分がその近傍をどのように切断するかという観点から、与えることに成功した。ここでReeb空間とは、レベル集合の連結成分全体のなす空間である。これまで多くの場合にグラフ構造を持つことは知られていたが、その特徴づけを得られた意義は大きい。これにより、データ可視化へReeb graphが活用できるための条件が厳密に決定できたことになり、こうした結果を得られた意義は大きい。さらに、3 次元多様体上に2つの実数値関数が与えられたとき、それらのレベル集合の位置関係を記述する際の基礎となる概念としてReeb complementという数学的対象を分担者の櫻井らとともに初めて定義し、具体的なデータに対してそれを求めるアルゴリズムを開発する研究に着手した。また、3次元多様体上に2つの区分的線形写像が平面への写像として与えられたとき、そのReeb空間を、多重次元Reebグラフを用いて求めることができることを数学的に証明し、与えられたデータに対してそれを求めるアルゴリズムを開発することに着手した。また、分担者の山本は、境界付きコンパクト曲面から平面への可微分写像でジェネリックなものを考察し、その境界に現れる特殊な特異点の消去について成果を得た。実データの解析や可視化の際には、データが与えられるドメインはコンパクトで境界付きの多様体となることが想定されるため、こうした結果は、そうしたデータの位相的振る舞いを記述する際に重要な役割を果たすことが期待される。また、分担者の櫻井は、区分的線形写像を可視化するための実装に取り掛かり、具体的な可微分写像について、それを区分的線形写像として実現した際の可視化について、実装の諸段階を完了させた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、データを多様体間の可微分写像の離散サンプルであると考え、微分トポロジー、特に特異点論とモノドロミーを用いてデータ可視化の革新的新手法の確立を目指すことが目的である。これまで、特異ファイバーの分類に基づいたデータ可視化手法が開発されてきているが、データの大域構造、特にそのねじれは可視化できていない。そこで本年度は、モノドロミーが重要な役割を果たすことが期待される状況でも、Reeb空間やReebグラフといった既知の概念が活用できれば、そうした手法がより活用しやすくなるため、そのための条件について研究した。特に、Reeb空間がグラフ構造を持つための必要十分条件が決定できたことは、本研究が順調に進んでいることを意味する。我々はさらにこうした結果を用いて、データのねじれをモノドロミーとして可視化する新手法を、情報科学者との協働により開発し、ユーザーインターフェースとして実装することも目指しているが、本年度は櫻井がそうした実装に着手すべく、そのためのアルゴリズム的観点からの第一段階を構築できた。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
今後は令和4年度に研究したround fold mapだけではなく、モノドロミーが重要な役割を果たす可微分写像の研究を進め、そうした写像の不変量を、Reeb空間やReebグラフも活用しつつ、探していく。それにより、より複雑な写像に対しても、モノドロミーの可視化が実行できることが期待される。また当初の計画では、ファイバーの連結成分を記述するReeb空間を0次元ホモロジー群の図式で再解釈し、それを拡張して一般次元のホモロジー群などの位相不変量を考えることで、Reeb図式の概念を定式化することも目標としてきた。今後はこの方面での研究を推進していく必要がある。これにより、写像の大域構造を記述する理論的基盤を構築することが目的である。こうした新概念は特異写像の研究において画期的なもので、多様体の新しい不変量の開発や、力学系などの他分野への応用も期待される。そこでこうした方面での研究を引き続き推進する。そのため、既存の特異ファイバーの分類によってReeb空間の局所構造を再確認し、それらの大域的つながり具合を定式化すべく、ホモロジーの自己同型写像のなす群、あるいは写像類群を有効に用いて研究を推進してゆく。
今回、幸いにも、研究計画は予定通り進みつつある一方で、予測不能だった外部要因により、予算執行が減ったため、予算を飛躍的に効率活用することとなった。この予測不能の外部要因というのは、まず第一には、コロナ禍が収束し、日本と海外を結ぶ航空券代が、前倒し請求の申請時と比べて急激に値下がりしたことであり、これは予測不可能であった。また第二に、申請時にはHamish CarrやPetar Hristovら海外招へい者らについて往復航空券を負担することを想定していたのが、ご本人達の都合で片道になり、これも想定外の外部要因である。支出は減りはしたが、前述のように研究計画が予定通り進んだ理由は、招へい用務を、申請時の計画通り実行できたためである。すなわち、遂行した用務は日数・時間が当初計画から減らなかったため、想定通りの研究を行うことができた。増えた次年度使用額については、今回の予算で研究を進めているデータ適用の活動を拡充するための旅費や物品に充てる計画である。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Research in the Mathematical Sciences
巻: 11 ページ: -
10.1007/s40687-024-00436-z
巻: - ページ: -
Sao Paulo Journal of Mathematical Sciences
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Algebraic & Geometric Topology
巻: 23 ページ: 3745~3762
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B. Williams, Y. Chen, & J. Neville (Eds.), AAAI-23 Technical Tracks 4 (Proceedings of the 37th AAAI Conference on Artificial Intelligence, AAAI 2023; Vol. 37). AAAI Press
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https://imi.kyushu-u.ac.jp/~saeki/index-j.html
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