研究課題/領域番号 |
22K18269
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 隆佑 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50615309)
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研究分担者 |
井上 圭一 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90467001)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | テラヘルツ分光 / タンパク質 / 非同期サンプリング |
研究実績の概要 |
タンパク質に外部からエネルギーを与えて非平衡状態にすると集団振動モードが最低エネルギー準位に集中し、ある種のボースアインシュタイン凝縮が発現することが半世紀前に理論的に予測された。これはフレーリッヒ凝縮と呼ばれ、長らく実験的な検証がなされていなかったが、テラヘルツ帯において鋭い線幅を持つ吸収ピークとして観測できる可能性が指摘されている。 本研究では、光励起したタンパク質に対して広帯域・高分解能の高速テラヘルツ分光を行うことで、フレーリッヒ凝縮の存在を立証してその観測方法を確立し、凝縮ダイナミクスを計測することを目指す。そのために広帯域・高分解能かつ高速にテラヘルツ分光を行うことのできる非同期サンプリング時間領域分光システムのジッター補正法を開発した。これまでに二つの自作Ybファイバーレーザーを用いた原理実証に成功していたが、波長が1030nmであるため、利用できるテラヘルツ発生及び検出素子が限定されてしまう。そこで本手法を市販のTi:Sapphireレーザーに対して適用し、同様のジッター補正が可能であることを実証した。これによって低温成長GaAsを使った櫛型高効率テラヘルツ発生素子や、ZnTe結晶と言った高感度電気光学結晶を使うことが可能になり、シグナルノイズ比が大きく向上した。さらに再生増幅レーザーと同期可能であるため、高強度パルスと組み合わせたポンププローブ測定へと拡張することが可能になった。 さらにジッター補正法の計測原理の理論的考察を行い、パルス繰り返し周波数の最適化を行うことで、長時間にわたって高安定に高周波数分解能でテラヘルツ計測するシステムを実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究に必要な広帯域・高分解能かつ高速のテラヘルツ分光を今まで以上に簡便なシステムで実現する手法を開発し、それを市販レーザーでも実現することで高強度パルスと組み合わせたポンププローブ分光に適用可能なシステムを構築した。 一方で、テラヘルツ分光によるタンパク質の計測については、可視CWレーザーをタンパク質に照射するときに生じる加熱効果によって試料温度が大きく上昇してしまうことが問題となった。そのため試料周りの光学系の設計を見直す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までに開発した高速かつ高周波数分解能の計測手法を、光励起したタンパク質試料に対して適用し、フレーリッヒ凝縮の観測を目指す。 これまでは一般的な透過配置によるテラヘルツ分光を行いながら可視CWレーザーをタンパク質に照射していたが、これでは可視及びテラヘルツ領域の侵入長の問題によって、非常に薄いタンパク質試料を使う必要が生じるため、光励起による加熱の影響を外に逃がすことができず、試料温度が大きく上昇してしまうことが問題となった。 そこで今年度は、プリズムを使ったテラヘルツ全反射減衰分光システムを新たに構築する。これにより試料を熱浴と十分接触させて、光励起による温度上昇を抑制しながら光励起非平衡状態におけるタンパク質計測システムを実現する。さらに新たに特任研究員を一名雇用し、研究のスピードアップを図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究をここまで引っ張ってきた博士課程大学院生が学位を取得し今年度一杯で卒業したため、次年度より新たに特任研究員を雇用することにし、本研究のスピードアップを図ることにした。さらにテラヘルツ分光計測の試料周りの設計を大きく見直す必要が生じたため、今年度の研究費の一部を次年度に回し、次年度特任研究員と議論して光学系を新たに構築するための費用に充てることにした。
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