研究課題/領域番号 |
22K18274
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三石 郁之 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (90725863)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | グラフェン / 自立膜 / 宇宙 / X線 / 紫外線 / 原子状酸素 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、【紫外線】【X 線】【超薄膜グラフェン】【機械強度】というキーワードに着目した、汎用フィルターの設計・製作・評価という共通基盤技術の確立・実証までを世界に先駆け完遂し、宇宙・地上機器への搭載を通し、地球・宇宙物理学から医学・生物・化学・分析科学分野等を含めた様々な学術領域における研究課題への取り組みに貢献することである。 本年度は、(1) 高感度素子の実現に向けた軽負荷製作工程の確立、(2) 実装に向け最も重要な原理実証の一つでもある紫外線・X 線帯域の透過率の詳細測定の実施、および (3) 宇宙環境耐性評価項目である高速原子状酸素照射実験を実施した。(1) については、特に転写時の負荷を軽減させる方法を見出し、まだポリマー残渣の程度の定量評価ができていないものの、単層で直径 300 um、2 層で直径 500 um を超えるグラフェン自立膜の製作に成功した。(2) については放射光施設内の二つのビームラインを駆使し、評価システムを構築することで、1・5 層グラフェンについて 30-500 eV 帯域の透過率を調べ、期待通りの高い透過率であることを確認した。また、4 ヶ月程度の保管期間を経て 100-500 eV 帯域の試験を実施し、系統誤差の範囲内で有意な劣化がないことも確認し、実装に向け有用な情報を得ることに成功した。(3) については、単層グラフェンに対し 1E15-1E19 atoms/cm2 の照射量を照射し、照射前後にてラマン特性を評価した。結果、1E17 atoms/cm2 までは大きな変化はない一方、1E18 atoms/cm2 以上の照射量についてはラマン特性に大きな変化が生じていた事が確認された。これにより、そのような宇宙環境にさらされる場合、軽金属薄膜の成膜等の耐性向上が必須になることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた開発項目を順調にこなしている。本年度は、高品質グラフェンに特化した製作工程の条件出しや、効率良く条件出しを進める事ができる異なる径の穴を有するパターニング基板の入手など、開発基盤の構築が順調に進んでいる。また、紫外線・X 線透過率評価試験方法の確立や、宇宙環境耐性評価試験の実施も行い、高感度素子の実装に向けた準備が着実にできている。さらには、直径 100 um をゆうに超える高感度大口径自立膜の実現に向けた独自の製作工程の確立にも着手し、その成果の一部は特許化される予定である (2023 年 5 月末に出願予定)。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、初年度の成果を最大限に活かし、開発を加速させていきたいと考えている。次年度以降の最大の課題は、構築した開発環境を利用し、製作工程の条件出しを進め、高感度素子化を目指した最大口径の更新およびその歩留まりの向上である。これには、有機溶媒を利用した浸漬方法を根本から見直し、浸漬から乾燥までの各工程の条件出しを進め、新たな浸漬システムの構築が鍵となる。すでにポリマー被覆工程の条件出しや浸漬ジグの設計パラメータのチューニング等、各工程の中で特に重要となる条件の洗い出しが進んでいるため、それらを組み合わせての網羅的な条件出しを進める準備には目処がついている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究と相補的な別予算の獲得により、人件費の一部や共通する消耗品 (グラフェン素子購入費等) の開発経費を抑える事ができた。これにより、翌年度分は宇宙・地上機器への実装に向けた開発をより加速的に進める事ができる。
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