研究課題/領域番号 |
22K18275
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 裕史 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (40224547)
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研究分担者 |
北川 敦志 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命・医学部門, 部長 (40280739)
村松 正幸 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所, 主幹研究員 (10626419)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2027-03-31
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キーワード | ECRIS / 多価イオン / ICR / LHR / 低周波数RF電磁波 |
研究実績の概要 |
本課題では電子サイクロトロン共鳴(ECR)多価イオン源(ECRIS)において,従来の常套手段であるマイクロ波高周波数化と磁場強度増大に基づく改良での多価イオン高収量化と異なり,遮断密度制約がない低周波数電磁波共鳴によって多価イオン高収量化を図り,その機構等を解明して各種実機への適用を目指している.具体的にはGHz帯マイクロ波によるECRISへ,より低周波数RF電磁波を導入してイオンサイクロトロン共鳴(ICR)及び低域混成周波数共鳴(LHR)を引き起こし,ECRによって生じたポテンシャル・ウェル緩和や軽Zイオンの選択的な加熱により多価イオン種クーリング助長等による多価イオン生成の効率化を図る. ICRやLHRを発生させる為の低周波数RF電磁波は真空窓等を経て高真空中に導入したアンテナから給電して導入する.アンテナは水冷と絶縁が欠かせなく,かつ既存のECRISプラズマ生成に甚大な影響を回避する必要ある.従ってICRとLHRの場合それぞれで予備的実験を含めて形状等の最適を図る必要がある.そしてこれらの最適化されたアンテナを負荷として,それぞれの低周波数RF電源において,最適化された整合器等の仕様が決まる.本研究では20kHz~1MHzにおけるICR実験から行い,イオンビーム及びプラズマ計測し,その効果を確認した後にLHR実験へ移行する手順としている.それぞれにおいて試作したアンテナを作製して,ECRIS実機に設置して既存のECRISプラズマ生成やイオンビーム生成への影響や既存電源を用いたRF導入して実験的に確かめたのちに,最適化された本実験用アンテナを製作して,併せて最適化されたRF電源と整合器を製作して本実験を行い,ECRISにおける多価イオン生成の高効率化における新たな低周波数電磁波共鳴効果をイオンビーム価数分布,エミッタンス,プララズマパラメータ計測等で検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022(R4)年度は,ECRIS でイオンサイクロトロン共鳴(ICR)を行うための低周波数電磁波導入系構築を行う予定であった.20kHz~1MHz 低周波信号は整合器付き増幅器によって増幅し電流導入端子で真空中へミラーエンド上流から給電する.低ターン数コイル状アンテナは中心を真空容器軸上としフィードスルーで約100mm 軸方向へ可動とし,ICRが起こる磁場強度領域でECR ゾーンを取り囲むことが可能な大きさとする.アンテナ材料,形状,絶縁方法, 導入方法および整合器等の最適化を検討した. 本研究課題の採択が決定した7月以降,予てから連絡を取り合っていた低周波数RF電源メーカーからは製作可能との返事を得た.しかし,RF導入部真空容器やアンテナ設計製作に関しては,従来,設計製作実績のある数社の業者より,多忙その他の理由等から断られ,新たな業者を探すことに数カ月を要した.水冷を要しない高融点材料Mo製コイルをセラミックビーズで絶縁してICR予備実験用アンテナを自作し,RF電源負荷のインピーダンスが決まり,RF電源の仕様が2022(R4)年12月に確定した.当初電源の定格値を500Wとしたが,数カ月の遅れで原材料高騰の煽りを受け,スペックを300Wとせざるを得なかった.2023(R5)年1月に発注契約を結ぶことが出来たが,関連する原材料納期遅延の影響で納期は2023(R5)年10月となった.試作したMo製の予備的ICRアンテナはECRISに設置してICR適用の予備実験を行って,ECRISにおけるGHz帯のマイクロ波導入による本来のECRプラズマ生成や多価イオン生成に致命的な影響がないかや予備的ビーム計測等を実験的に確かめた.そこで,低周波数RF導入部真空窓とターン数,ピッチ,及び形状等の確定したICRアンテナの概念設計に入り,形状・材質等が定まった.
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今後の研究の推進方策 |
2023(R5)年度は,前年度に概念設計したRF導入部とICRコイルの設計製作を行いECRISに設置して,RF電源納入後にICR実験を行う. Xe ガスへ軽Z のAr ガス混合時のICRによる選択的加熱し, クーリングロスチャネル増大でXe 多価イオン電流の増量化を行う.また,純ArのECR 共鳴点付近のポテンシャル・ウェルをICRによる緩和して多価イオン電流の増量化も試みる.実験時の低周波数電磁波をオシロスコープでモニターし,バイポーラ電源と2台のデジタルマルチメータでプラズマパラメータ変化を静電プローブ法で測定する.更に,選択的イオン加熱やクーリングはモータ駆動式フィールドスルーを用いてエミッタンス測定することで確認する.微弱電流を測定のためにpA メータを使用する.低周波数電磁波導入用の電流導入端子とアンテナと整合器は試行錯誤して最適化を行う.エミッタス測定から得られた自乗平均エミッタンスからECRISにおけるRF導入でのイオン加熱を検証するためには,引き出し電極におけるビームロスを極力低減する必要があることが判明したので,エミッタンス測定系の設計製作と同時にイオンビーム引き出し系の改良にも着手して進める予定である.ICRアンテナの最適化を繰り返すとともに,生成されたECRIS内のプラズマパラメータの計測も行い,多価イオン生成の効率化がICRによるイオンの選択的加熱によるものなのかどうかを明確にする.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022(R4)年度の当初物品種目予算の大部分を占める低周波数RF電源一式(3,217,500円)は,既に購入契約済みである.但し,当該物品の製作に必要となる資材調達時期遅滞のために納入時期は2023(R5)年10月となっているが,R5年度のなるべく早期納入を要請している.また,当初予算の残り(約78万円)はRF導入部とICRアンテナ等の設計・製作に当てる予定であり,2022(R4)年度に既に材料・形状等の概念設計の段階が済んで見積もりと納期等も確認済みであるので,2023(R5)年度当初に詳細設計・製作した後に,前述のRF電源納入時期に合わせた納入が可能であり,本研究課題におけるICR実験開始時期に大きな遅滞等はないので,2023(R5)年度の当初の研究計画に関した研究遂行並びに予算執行についても問題なく進展すると考えられる.
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