研究課題/領域番号 |
22K18302
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
河内 俊憲 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (40415922)
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研究分担者 |
田中 健人 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (40911011)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | レーザ計測 / 深層学習 / Large Eddy Simulation / 超音速流れ |
研究実績の概要 |
本研究では流体の先進画像計測に深層学習を融合することで、革新的な計測法を創生することを目指している。本研究では、その題材として、「超音速流中の壁面せん断応力の瞬時分布の計測」という、未だ誰も成しえていないテーマに挑戦している。具体的には、壁面から離れた物理量と壁面せん断応力を関係づけるモデルの深層学習を、高精度・高忠実な数値シミュレーションの値を用いて行い、この深層学習されたモデルに、粒子画像流速計測法で得られた速度データ等を入力し、超音速流中の壁面せん断応力の瞬時分布の計測を試みている。 2022年度は比較的計算負荷の小さい計算格子を用いた超音速付着境界層のLESを実施した。そして、そのシミュレーション結果を教師データとした深層学習を、Google社が提供するpythonのクラウド環境を用いて行った。教師データとしては、実験において容易に取得可能な流れ方向流速のみならず、高さ・奥行き方向流速、および温度や圧力といった熱力学状態量を試した。また深層学習のモデルとしては、ディープニューラルネットワーク、1次元畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、二次元CNNを試した。その結果、境界層厚さの20%から50%高さと壁面から離れたデータでも、二次元CNNなら流れ方向流速単独でも瞬時の壁面せん断応力分布を予測可能なモデルが構築可能であることが分かった。 2022年度はこれら深層学習によるモデル構築に加えて、より高精度なLESを安定に可能とする「KEEPスキーム」の導入に着手した。KEEPスキームは流体の運動エネルギーとエントロピーの保存を高忠実に再現する数値スキームで、2022年度はこのスキームを導入した非粘性の計算コードを開発した。そして計算コードのベンチマークとしてしばしば用いられるテイラー・グリーン渦の時間発展計算を行い、導入したスキームの妥当性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の実施計画として「1) 高精度なLESによる深層学習用の教師データ取得」、「2) LESを教師データとした壁面せん断応力と空間データをつなぐ深層学習モデルの構築」、「3) LESと同じ系による実験データの取得」、および「4) 実験データから瞬時壁面せん断応力の算出とその妥当性の検証」を挙げている。 2022年度の成果として、1)に関しては高精度・高忠実なLESを実施するためのKEEPスキームの構築が完了し、後は境界層流れを計算するLESコードへの実装を残すのみである。2)に関しては、詳細は「今後の研究推進方策」で述べるが、現状多少の問題点はあるものの、壁面から離れた物理量と壁面せん断応力を関係づけるモデルの構築が可能であることが分かった。3)と4)に関しては、2023年度に主に実施する予定であるけれど、これまでの研究を通じて確立された手法の拡張であるため、大きな問題にはならないと考えている。これらを加味し「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、壁面から離れた物理量でも壁面せん断応力を精度よく予測できる可能性を示すことが出来た。しかしながら、現状のモデルでは、精度良く壁面せん断応力を予測可能なのは、深層学習に用いたデータとデータの間の時刻の内挿データ区間のみに限られ、全く学習を行っていない時刻の外挿データ区間では、予測精度には問題があった。そこで2023年度は、外挿データ区間でも精度よく壁面せん断応力を予測できる深層学習モデルの構築を目指す。具体的には深層学習に入力する教師データの解像度や点数の向上、複合化(例えば流速と温度)を検討している。現在使用しているクラウド環境ではメモリや計算時間に限りがあり、上述の深層学習は困難である。そこで2022年度に購入した深層学習用GPUを搭載したワークステーションにこれまで構築した深層学習環境を移植し、これに対応する。LESに関しては、超音速付着境界層の解析を行うためのLESコードへKEEPスキームを実装し、まずはショックレット等の強い波が生じない亜音速付着境界層の計算を行い、次いで超音速付着境界層の計算を実施する予定である。これら深層学習と高忠実なLESの実施に加えて、最終的な入力値となる実験データの取得を行う。特に2023年度は、高解像度に広範囲のデータ取得するための、PIV用カメラとPLIFカメラを新規に購入し、これらを用いた実験データの取得を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
深層学習に用いた数値計算の規模を小さめにしたため、当初予定していたスーパーコンピューターの使用料を抑えることができたため、当該助成金が生じた。金額として少額であるため、実験用消耗品として使用する予定である。
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