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2023 年度 実施状況報告書

ヒト赤血球型第4世代PFC人工酸素運搬体の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22K18311
研究機関東京大学

研究代表者

伊藤 大知  東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50447421)

研究分担者 山田 真澄  千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30546784)
三野 泰志  岡山大学, 自然科学学域, 助教 (70709922)
稲垣 奈都子  東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00611419)
研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2025-03-31
キーワード人工酸素運搬体 / 赤血球 / 再生医療 / 組織工学 / 膜乳化 / コアシェル粒子 / フェーズフィールド法 / マイクロ流体デバイス
研究実績の概要

人工酸素運搬体は、将来、3次元組織工学・再生医療の細胞灌流培養プロセスにも必要不可欠である。本研究では、ヒト赤血球のサイズ・形状や力学特性を模倣した「cDFCs (concave-shaped Deformable PFC-based Oxygen Carriers)」の開発を試みている。cDFCsは、ヒト赤血球様のサイズと形状を持つコアシェル粒子で、コアのPFCは様々な溶媒の中で最大の酸素溶解度を持ち、酸素を吸収放散する。最終的に、体内で長時間循環可能な革新的なPFC酸素運搬体を実現することを目標としている。
本年度は、今まで用いていたシェル素材であるPLC(ポリ乳酸カプロラクトン共重合体)に加えて、PDMS-TPE(ポリジメチルシロキサン熱可塑性エラストマー)をシェル素材に用いた人工酸素運搬体の開発に成功した。PLCと異なって、PDMS-TPEでは、コアのPFOBに対するPDMS-TPEの比率を大きくすると、溶媒浸漬法を用いることなく、真球状から凹状形状に形状が変化し、シェルの厚みが薄くなるほど形状が赤血球に類似してくることに明らかになった。またシェル厚みの減少と形状の変化に伴って、酸素運搬体の変形能も大きくなることがわかった。さらに酸素透過性に優れたフッ化ポリイミドシェルと酸素溶解度に優れたFDC(パーフロロデカリン)をコアに持つ酸素運搬体の開発にも成功し、様々な性能の改善を達成した、異なった酸素運搬体群の創出に成功した。
さらにPLC/PFOB型酸素運搬体に、分散相にブロックコポリマーを添加するのみでPEG(ポリエチレングリコール)コーティングを施することに成功し、マクロファージの貪食を著しく抑えることに成功した。山田が開発したPDMSマイクロ流路によって、コアシェル粒子の深さ4μmの流路通過性が、コーティングの有無によって大きく変化することを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

おおむね順調に進捗している。最大の課題であるより優れた変形性の獲得に向けて、PLCシェルよりも柔軟性と酸素透過性に優れた素材であるPDMS-TPEによって、新しい酸素運搬体を開発し、PLC/PFOB型よりもより柔軟性と酸素透過性に優れたcDFCsの開発に成功している。優れた酸素透過性と光透過性を利用して、プラチナ錯体であるハイポキシアで燐光を発する酸素プローブをシェル層に担持することで、酸素濃度測定と酸素運搬能を兼ね備えた酸素運搬体の開発にも成功している。さらにコーティングポリマーとして複数種類の検討を行ったが、PEGコーティングの密度を制御することによって、LPSで刺激したマクロファージ細胞株においても、ほぼファゴサイトーシスを抑えることに成功した。
酸素運搬能に関しては、今まで用いてきた低酸素でGFPを発現するhrHeLa細胞を用いて、酸素供給能の改善を図ってきたが、あらたに膵島β細胞株を用いたスフィロイド形成過程において、プレリミナリーな結果であるが本酸素運搬体の使用が効果的であることが示唆され、再生医療への応用展開に着手している。
三野らによって、相分離シミュレーションにおいても、パルスフィールズ法の改良によって、3成分系(F/O/W)液体が壁面を濡らした場合の計算により、凹状形状の形成メカニズムに迫ることも試みている。山田らによって、新たなマイクロ流路の開発も試みられており、スリット状の流路に加えて、多孔膜を組み合わせた新たな流路設計にも成功している。
以上のように、酸素運搬体の性能の進化と、評価技術の進歩に着実な進捗を見ており、動物モデルにおける評価への準備が大きく進んでいる。

今後の研究の推進方策

酸素運搬体の素材や形状の改善による変形性能の進歩、およびコーティングや形状・柔軟性等によるIn vitroでのマクロファージによるファゴサイトーシスの大幅な抑制の2つの成果は、in vivo実験において、目標とする長期滞留性の獲得に向けて、大きなアドバンテージとなる。赤血球の寿命は120日程度であり、加齢とともに柔軟性を徐々に喪失することが知られており、古い赤血球は脾臓によって捕捉され、分解される。マイクロサイズの人工酸素運搬体も毛細血管の十分な変形通過性を獲得できない場合は、in vivoでの静脈投与において、脾臓や肺などに集積するもの考えられる。
現在、本研究で開発された、もっとも柔軟性に優れているPDMS-TPE/PFOB酸素運搬体に、PLC/PFOB酸素運搬体と同様の手法で、PEGコーティングを付与すること検討する。さらに柔軟性や形状異方性とファゴサイトーシス抑制の関係についての検討をおこなう。
本研究では、最終年度の2024年度において、1,2年目の成果を基盤に、マウスあるいはラットにおいて、in vivoイメージングを行い、酸素運搬体の体内動態を研究する。蛍光色素を封入した酸素運搬体群を開発することによってIVISにより臓器分布を解析する。またPFCに由来する核種から19F MRIを用いた解析によって、in situに臓器分布の変化を測定し、IVISのデータと比較検討する。また各個体の健康状態も重要な要素であり、酸素運搬体の血管閉塞などによる副作用がないことを同時に詳細に検討する。

次年度使用額が生じた理由

最終年度に、集中的にin vivo実験を行うために、2年目の本年は、化学的な実験に集中して、酸素運搬体の改良と量産方法の検討に集中していた。来年度に、得られた成果をベースにして集中的にin vivo実験を実施する。このため、研究費使用計画を変更した。
シミュレーションにおいては、計算機の部品が不足しており、2次元を主体として計算を行った。また計算時間も非常にかかったが、非常にコストパフォーマンスが低かった。このために、シミュレーションモデルの開発を主に集中し、一部の予算を繰り越して、より性能の高い計算機リソースの整備を進めて、完成したモデルを用いて集中的に計算を行った方が効率的と考え、研究費使用計画を変更した。

  • 研究成果

    (24件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Development of erythrocyte-mimetic PFOB/PDMS thermoplastic elastomer core-shell microparticles via SPG membrane emulsification2024

    • 著者名/発表者名
      Zhang Qiming、Inagaki Natsuko F.、Yoshida Hiromi、Kamihira Masamichi、Sakai Yasuyuki、Ito Taichi
    • 雑誌名

      Journal of Membrane Science

      巻: 689 ページ: 122119~122119

    • DOI

      10.1016/j.memsci.2023.122119

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Injectable, Shear-Thinning, Self-Healing, and Self-Cross-Linkable Benzaldehyde-Conjugated Chitosan Hydrogels as a Tissue Adhesive2024

    • 著者名/発表者名
      Tsai Ching-Cheng、Chandel Arvind K. Singh、Mitsuhashi Kento、Fujiyabu Takeshi、Inagaki Natsuko F.、Ito Taichi
    • 雑誌名

      Biomacromolecules

      巻: 25 ページ: 1084~1095

    • DOI

      10.1021/acs.biomac.3c01117

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Pushing the limits of microfluidic droplet production efficiency: engineering microchannels with seamlessly implemented 3D inverse colloidal crystals2024

    • 著者名/発表者名
      Mashiyama Shota、Hemmi Runa、Sato Takeru、Kato Atsuya、Taniguchi Tatsuo、Yamada Masumi
    • 雑誌名

      Lab on a Chip

      巻: 24 ページ: 171~181

    • DOI

      10.1039/D3LC00913K

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Recent advances in micro-sized oxygen carriers inspired by red blood cells2023

    • 著者名/発表者名
      Zhang Qiming、Inagaki Natsuko F.、Ito Taichi
    • 雑誌名

      Science and Technology of Advanced Materials

      巻: 24 ページ: 2223050

    • DOI

      10.1080/14686996.2023.2223050

    • 査読あり
  • [学会発表] 化学工学に立脚した新規医用材料の開発と新しい疾患治療法の開拓2024

    • 著者名/発表者名
      伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会第89年会
    • 招待講演
  • [学会発表] 新規インジェクタブルハイドロゲル創傷被覆材の開発2024

    • 著者名/発表者名
      石井海, 稲垣奈都子, 伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会第89年会
  • [学会発表] 遺伝子改変リンクモジュールのエンドトキシン除去法および抗炎症効果の検討2024

    • 著者名/発表者名
      大川将志, 菅谷穂乃香, 稲垣奈都子, 中木戸誠, 長門石曉, 津本浩平, 伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会第89年会
  • [学会発表] Development of oxygen fluorescent probe-loaded PFOB/PDMS-TPE core-shell oxygen carriers2024

    • 著者名/発表者名
      Zhang Qiming, 稲垣 奈都子, 伊藤 大知
    • 学会等名
      第23回日本再生医療学会総会
  • [学会発表] Prevention of Postoperative Peritoneal Adhesion by Hepatocyte Growth Factor DNA Aptamer2024

    • 著者名/発表者名
      Yizhou Dai, Natsuko F Inagaki, Ryosuke Ueki, Shinsuke Sando, Kiyoshi Hasegawa,Taichi Ito
    • 学会等名
      第23回日本再生医療学会総会
  • [学会発表] Development of Erythrocyte-mimetic PDMS Thermoplastic Elastomer/PFOB Core-shell Microparticles by SPG Membrane Zhang Qi Ming2023

    • 著者名/発表者名
      Zhang Qi Ming, Hiromi Yoshida, Natsuko F Inagaki
    • 学会等名
      13th International Congress on Membranes and Membrane Processse (ICOM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Development of drug-loaded torus-shaped alginate microparticles for its sustained release2023

    • 著者名/発表者名
      Kazuki Matsumiya, Yuichiro Oki, Natsuko Inagaki, Satsuki Fukuda, Hitoshi Okochi,Kenichi Yoshie, Taichi Ito
    • 学会等名
      13th International Congress on Membranes and Membrane Processse (ICOM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Development of PEG-coated PFOB/PLC core-shell microparticles via SPG membrane emulsification to prevent MΦ phagocytosis2023

    • 著者名/発表者名
      DA XIAO, Natsuko F Inagaki, Taichi Ito
    • 学会等名
      13th International Congress on Membranes and Membrane Processse (ICOM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Development of biodegradable and reactive polyethylene glycol membrane for controlling drug permeation2023

    • 著者名/発表者名
      Kai Ishii, Kento Mitsuhashi, Natsuko Inagaki,Taichi Ito
    • 学会等名
      13th International Congress on Membranes and Membrane Processes (ICOM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] Potassium ion-responsive star copolymer with controlled aggregation/dispersion transition and its potential application as a macrophage probe2023

    • 著者名/発表者名
      Noriko Nakamura, Seiichi Ohta, Mariko Yamada, Yukimitsu Suzuki, Natsuko F. Inagaki,Takeo Yamaguchi, Taichi Ito
    • 学会等名
      13th International Congress on Membranes and Membrane Processse (ICOM2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] DEVELOPMENT OF MOLDABLE PEG HYDROGEL SEALANT FOR TISSUE SEALING2023

    • 著者名/発表者名
      Kento Mitsuhashi, Natsuko F Inagaki, Taichi Ito
    • 学会等名
      Biomatrerials International 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] SURFACE-MODIFIED DENDRITIC POLYETHYLENEIMINE-BASED INJECTABLE HYDROGEL FOR TISSUE ADHESIVES2023

    • 著者名/発表者名
      Po Hsuan Hsu, Arvind Kumar Singh Chandel, Natsuko F Inagaki, Taichi Ito
    • 学会等名
      Biomatrerials International 2023
    • 国際学会
  • [学会発表] DMPA修飾多糖類とその誘導体の開発と抗菌材料としての有用性の検討2023

    • 著者名/発表者名
      松本美冬, Arvind Kumar Singh Chandel, 稲垣奈都子, 伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会山形大会2023
  • [学会発表] Reactive Inkjet Printing による生分解性PEG膜の表面制御2023

    • 著者名/発表者名
      石井海, 三橋健斗, 稲垣奈都子,伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会山形大会2023
  • [学会発表] アルギン酸への疎水基の導入によるレオロジー特性への影響評価2023

    • 著者名/発表者名
      中康平,松宮和生,稲垣奈都子,吉江建一,小池修,辻佳子,辰巳怜,伊藤大知
    • 学会等名
      混相流シンポジウム2023
  • [学会発表] アルギン酸への疎水基の導入によるレオロジー特性への影響評価2023

    • 著者名/発表者名
      中康平,松宮和生,稲垣奈都子,吉江建一,小池修,辻佳子,辰巳怜,伊藤大知
    • 学会等名
      化学工学会第54回秋季大会
  • [学会発表] Development of PEG-coated PFOB/PLC core-shell oxygen carriers via SPG membrane emulsification for prevention of MΦ phagocytosis2023

    • 著者名/発表者名
      Da Xiao, Natsuko Inagaki, Taichi Ito
    • 学会等名
      第61回日本人工臓器学会大会
  • [学会発表] 腹膜播種治療に向けた薬物送達システムの数理モデルを用いた設計2023

    • 著者名/発表者名
      伊藤大知
    • 学会等名
      第61回日本人工臓器学会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Development of PEG-coated PFOB/PLC core-shell AOCs via SPG membrane emulsifications technique2023

    • 著者名/発表者名
      Xiao Da, 稲垣奈都子, Arvind S.Chandel, 伊藤大知
    • 学会等名
      第30回日本血液代替物学会年次大会
  • [備考]

    • URL

      http://ito-lab.t.u-tokyo.ac.jp/publications.html

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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