研究課題/領域番号 |
22K18322
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
片山 郁文 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80432532)
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研究分担者 |
松永 哲也 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (30595905)
首藤 健一 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40300876)
内田 健人 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (40825634)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 高次高調波 / 金属材料 / 軽金属 / 光学異方性 / レーザー分光 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、Ti系材料における高次高調波の起源を探るために、赤外光を照射した際の3次高調波、5次高調波の角度依存性について、清書実験を行った。また、第一原理計算によってTiのバンド構造を計算した上で、光電場で駆動した場合の誘起電流を計算し、その角度依存性を調べた。その結果、バンド内の電流のみでは、観測された高次高調波の異方性を再現できないことが分かった。この結果は、観測された高次高調波が、バンド間遷移に基づくものである可能性を示唆している。さらに、Ti系材料の高調波発生を系統的に明らかにするために、Alを添加した試料についても高次高調波発生を調べた。その結果、Al添加量が増えるにしたがって高次高調波の異方性が小さくなることが分かった。これは、力学特性の異方性が、Al添加によって当方的なものに近づくことと符合している。したがって、電子状態と力学特性の異方性の間に相関があることを示唆している。また、高調波発生の角度依存性に、光学応答の異方性が寄与する可能性があることから、線形の光学応答についてもフーリエ変換赤外分光法と、赤外エリプソメトリー法によって異方性を計測することを試みた。Drude-Lorentz式を用いることで、赤外領域の誘電率を明らかにすることができ、これによって高次高調波の異方性を定量的に評価できるものと考えられる。今後は、このような光学特性の異方性をAlドープ試料等についても調べるとともに、エリプソメトリーの結果を解析し高調波発生をモデル化し、その理解を深めることを目指す。また、Snドープなどとも比較して、力学特性との相関とその普遍性を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な分光手法を組み合わせることで、Ti系金属の光学異方性に関する重要な知見を得ることができた。この結果は、材料科学の研究者による粗大粒結晶の作成が重要な寄与をしている。文献を調査した限りでは、チタンの線形光学定数の異方性ですら、正確な情報が不足しており、線形光学定数の異方性に関する情報のみでも新しい知見を有しているものと考えられる。今後、高次高調波発生との相関を調べ、結果を論文化することによって、電子状態の異方性に関する知見を確立し、力学特性との相関に関する知見を蓄積してゆくことができるものと考えられる。よって、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、電子状態の異方性がどのように光学応答の異方性に影響を与えるかを明らかにすることができた。線形応答から、3次、5次の応答まで、実験的には明らかにすることができ、その起源についても知見を得ることができている。今後はまず、これらの得られた成果を論文化するとともに、力学特性との相関を明らかにする実験に向けた準備を進める。特にAlドープとは異なる形で異方性が消失するSnドープや、Niなど他の物質についても同様の光学異方性に関する知見を獲得することを目指す。そのために、次年度に使用するための多結晶試料を育成する。また、異方性の結晶方位に対する依存性を定量的に評価するために、結晶軸方向と3次、5次の非線型光学過程の大きさから偏光依存性を推定するための解析手法を確立することを目指す。これらを通して、Ti系材料の力学異方性を電子状態から理解するための基礎としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
京都大学は主に高次高調波発生実験を担当しているが、本年度はこれまでの実験結果を精査し、論文化に向けた取り組みに注力した。その結果、本年度更新予定であった顕微分光法への拡張など、装置の更新は次年度に先送りした。これらは、論文執筆を含め、成果をまとめるために必要な取り組みである。次年度は繰り越し分も含め、顕微分光法をはじめとして、高次高調波の実験系を大幅に改良し、より微細なドメイン構造を高次高調波で可視化するシステムへとアップグレードする予定である。
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