研究実績の概要 |
有機リン化合物は現代社会を支える高機能材料の一種である。本研究課題では、この化合物を原料リン化合物であるホスフェニウムカチオンと対応するアルカンとの反応(直接ホスフィニル化反応)によって合成する手法を開発する。 本年度は目的化合物(ホスフェニウムカチオン)の原料合成について精力的に検討を行った。原料となる1,1-ジアリールエチレンに対してリチウム金属を作用させたところ、還元的二量化反応が進行して1,4-ジリチオブタンが生じていることを各種NMRから確認した。しかし、続くトリクロロホスフィンやフェニルジクロロホスフィンとの反応を行うと、原料の1,1-ジアリールエチレンが高収率で得られた。銅塩との反応でも同様であった。これは1,4-ジリチオブタンが容易に酸化されてしまうためである。そこで酸化性の低い亜リン酸エステル類を用いて骨格構築の合成反応を行ったところ、ホスファシクロペンタン環を持つ目的物の生成がNMRおよび質量分析から示された。現在スケールアップ、単離および収率向上条件の最適化に取り組んでいる。この結果は他の15族元素化合物の合成にも適応できる重要な知見である。 置換基の違いによる電子状態の変化を理解するため、ジメチルフェニルシリル基を4つ持つかさ高い置換基を導入したクロロホスフィン、クロロホスフィンスルフィド、および対応するリンラジカルを新規に合成した。これらの化合物は加熱および酸化を行うと、シリル基が脱離して対応するホスファアルケンおよびホスファアルケンスルフィドが生成した。置換基デザインの重要性を示す結果である。
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