研究実績の概要 |
1)ヒト嗅覚受容体発現系の改良:今までにヒト嗅覚受容体発現で多くのシャペロンなどが検討されたが、依然として感度不足は解決されていない。今年度は、嗅覚受容体の正しい膜局在を促すシグナルペプチドを最適化した。頻用されているRhodopsinシグナルペプチドを、Lucy、リゾチーム、IL2由来ペプチド等への置換や融合を検討した。評価は嗅覚受容体応答で評価した。その結果、特定のシグナルペプチドが全ての嗅覚受容体の細胞表層発現および匂い分子応答を改善するものではないことが判明した。嗅覚受容体内部の構造に迫るアプローチが必要と推定された。 2)Caイオン検出系の改良:今まではGCaMP6sを用いてきたが、検出可能な細胞内Caイオン濃度は100nM前後である。OR応答による細胞内Caイオン上昇が予想より低い可能性があるので、さらに高感度(10nM前後)なCameleonやYC2.60(GFP/RFP,やCFP/YFP融合体によるFRET検出)を検討した。その結果、低いCaイオン濃度域で作動する蛍光タンパク質を使用してもSN比が悪化することが多く、細胞内Caイオン濃度変化での検出は限界があると考えられた。 3)各種阻害剤の検討:本センサーによるOR応答の定量は細胞内Ca濃度によるため、同濃度を最大化する阻害剤も同時に検討した。具体的な標的分子は、ORをリン酸化して脱感作するGRK3、cAMPを分解するPDE、Caイオン排出を行うNCX,PMCA、増加したCaイオンに応答して各種シグナル分子を抑制するCALM(カルモジュリン)とCAMKII(同依存性キナーゼ)とし、各阻害剤を単独もしくは組み合わせて検討した。その結果、PDEを阻害するIBMX、PMCAを阻害するカロキシンにシグナル増強効果が認められた。なお、GRK3阻害剤の検討は終了していない。
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