研究課題/領域番号 |
22K18534
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山田 浩之 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (40621751)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 開発経済学 / 文化 / 歴史 |
研究実績の概要 |
2022年度は以下の取り組みを行った。 第1に、ベトナムで1075年から1919年まで実に800年以上の間にわたって儒学をメインに据えて実施されていた全国官僚登用試験の影響が持続し、今日の教育投資の地域間格差をもたらしているかに関しての実証分析を行った。この試験の合格者の輩出は、輩出地にとっての大きな誇りであり、合格者の名前は首都や地元の石碑に刻まれている。また、合格者を輩出させるためには地元の人々の熱意・協力が非常に重要なことも知られている。従って、合格者輩出のための地域ぐるみの努力は、教育を重視する文化の醸成に寄与したと考えられる。このインフォーマルな形の文化が歴史的に持続して、今日の教育投資に影響を与えているかの検証を行った。結果、全国官僚登用試験の合格者を多く輩出した地域ほど、(1)今日の7-10歳の子供の就学率が高く、未就学・ドロップアウトが少ない、(2)成人(22歳以上)の教育年数が長い、(3)大学入学試験でのパフォーマンスが良好、(4)家計支出のうち教育に支出する割合が大きい、(5)中・高校の数が多いことが分かった。ベトナムはこの全国官僚登用試験を1919年を最後に廃止し、現在は社会主義体制であること、現代の教育制度に儒学は一切盛り込まれていないことを踏まえると、人々の教育に対する価値観がインフォーマルな形(すなわちここでは文化)として持続していることが示唆される結果となった。この論文はJournal of Comparative Economicsに掲載された。 第2に、ベトナムに併合された前カンボジア領土に住むカンボジア人が、儒教思想の強いベトナムの影響をより受けているかに関する研究のため、両国の国勢調査を比較するデータベースの構築の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、ベトナムで1075年から1919年まで実に800年以上の間にわたって儒学をメインに据えて実施されていた全国官僚登用試験の影響が持続し、今日の教育投資の地域間格差をもたらしているかに関しての研究論文が国際的学術誌に掲載が決定したことは大きな成果だと考える。この研究では人々の教育に対する価値観がインフォーマルな形(すなわちここでは文化)として持続していることが示唆されることを明確に示すことが出来たことに意義があり、研究開始初年度に論文掲載まで至ったことを鑑みても、本研究課題はおおむね順調に進展していると言えると考える。 第2に、上記の研究テーマをより進捗させる形として、果たして男女間に教育格差が見られるのかという論文を現在用意している所である。仮説としては、儒教教育が熱心であった地域では今日の全体的な教育水準は男女ともに高いものの、その地域内の男女格差を見ると、他地域よりも大きいのではないかという、やや反直感的なものである。現在慎重に論文構築・執筆の段階にあるが、ほぼ最終段階にある。 第3に、上記1,2以外の研究テーマに関してもデータ整備・構築がおおむね順調に進捗している。具体的には、ベトナム・カンボジア両国の国勢調査を用いた比較を行うべく、質問項目の比較や、質問内容の類似性のチェックを慎重に行っている。異なった国の国勢調査を結び付けて研究に用いることは珍しく、この点は新規性の一端であると言える。また、カンボジアの国勢調査を用いた研究に着手しつつあり、こちらもデータクリーニングの段階である。更には、カンボジアの農業センサスをカンボジアの統計局から入手したことから、これも本研究課題に用いることが出来ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では引き続き地道に歴史的・文化的な背景を丹念に調べると同時に、利用可能なデータの整備を進めて実証分析を行い、論文執筆に繋げていく予定である。 具体的には以下のような方向性を予定している。 第1に、ベトナムで実施されていた全国官僚登用試験の今日の教育水準・投資・経済活動への男女格差に関する論文を完成させ、国際的学術誌への投稿までこぎつけることである。論文執筆は最終段階にあることから、この目標は達せられるのではないかと考えている。 第2に、隣り合うベトナム・カンボジアが全く異なる文化的背景を有していることに着目した研究案である。ベトナムは儒教を背景とした「父系社会」であるのに対し、カンボジアは伝統的に「母系社会」色が強いことが知られている。この文化的背景は、産まれてくる子供の性別を重視する傾向に影響を与えるのだろうかという仮説を、両国の国勢調査データを用い、かつベトナムが過去にカンボジアの領土であった地域を併合していったという史実を援用する予定である。 第3に、ポルポト政権時代の虐殺行為と、今日の村レベルの農業組合組織状況・農業活動水準の関係である。これまでに何度も実施してきた現地農村調査から、カンボジアでは村レベルでの農業組合形成が必ずしも進んでいないことが分かってきている。多くの農民にインタビューして明らかになったことは、農業組合自体が虐殺行為の媒介組織として使われたという悲劇が多々あったということである。では、虐殺行為が行われた場所の近くほど、今日農業組合の形成の度合いは低いのだろうか?またその帰結として農業活動はどうなっているのだろうか?これらの仮説を検証する。 第4に、カンボジアの3回(1998年、2008年、2019年)の国勢調査を用いた、出生順序が教育水準に与える影響の、大きな社会的・経済的変化に伴う中での、時系列的変化の研究である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はコロナの影響で、海外出張を思うように実施することが出来なかった。よって、新たな資料収集などに励むことはいったん中断し、入手済みであったデータを用いた研究に集中した。結果、国際的学術誌に論文を1本掲載し、同時に他の研究テーマの進捗に努めることが出来た。 最近はコロナの状況が落ち着いてきたことから、海外出張も再開できることが想定され、直接現地に出向いての資料収集やデータの購入も可能になると期待している。また可能であれば、価値観や慣習などの現地調査も実施したいと考えている。このような計画を考慮に入れると、現在拠出可能な当該助成金は妥当な額であり、着実な研究の遂行に心がけることとする。
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